ウィリアム・スタイグ/作 1971年 『ねずみとくじら』 瀬田貞二/訳 (評論社 2012年)
アメリカのイラストレーターで絵本作家のウィリアム・スタイグ。アニメ映画『シュレック』の原作『みにくいシュレック』の作者といえば、ピンとくる方もいらっしゃるかもしれません。スタイグは個性的な物語の絵本をいくつも残しています。その中から今回は、私の好きな一冊『ねずみとくじら』を紹介したいと思います。
この物語の主人公は、海に憧れるねずみのエーモス。エーモスはいつも海を眺めて暮らしていました。ある日、思い立って海に出ることを決めたエーモスは、自分で船を作り、旅立ちます。はじめは船酔いもしましたが、すぐに慣れ、海の旅を楽しみます。しかし、海の景色に心を奪われているとき、うっかり転がって海に落ちてしまいます。そのあいだに船は流されてしまい、エーモスは海の真ん中に取り残されます。
あたりを見回しても陸がまったく見えない場所で、エーモスは死を覚悟します。そこへ現れたのが、くじらのボーリス。ボーリスはエーモスを救い上げ、陸まで送り届けることになります。海を進む過程で、二人はさまざまな話をしながら互いに友情を育んでいきます。
陸に近づいたとき、別れを惜しんだエーモスは「いつかきっと役に立てるから、忘れないでほしい」とボーリスに伝えます。しかしその言葉に、ボーリスはこっそり笑います。あの小さなねずみが、自分のような大きなくじらを助けられるはずがない、と。
ところがあるとき、嵐がボーリスを襲います。海岸に打ち上げられて身動きが取れなくなったボーリスは、砂浜で死を覚悟します。そこへたまたまやってきたのがエーモスでした。エーモスは知恵を絞ってボーリスを助け、ふたたび海へ帰すことができました。こうして二人は、それぞれの世界へと別れを告げます。
限界があるけれども人生は豊か
この話がなぜか私にはとても印象深く、スタイグの作品を一冊挙げるとすれば、迷わずこれを勧めます。
海に憧れを抱く小さなねずみと、地球上で最も大きな哺乳類であることに自負を持つくじら。この二人が出会って、互いに助け合い、そして別れていく。
どれほど自分が立派だと思っていても、誰かの助けを必要とする瞬間は訪れます。逆に、どれほど自分が小さな存在だと思っていても、誰かを助けられることがある。この物語はそういった「お互い様」の感覚、つまり他者への謙虚さの大切さを伝えているのではないでしょうか。
大きな夢に向かって突き進むあまり、気持ちが高ぶって危うい行動を取ってしまう。エーモスのようなこころの状態になることは、誰にでもあるかもしれません。また「自分には力がある」と過信するあまり、大きな失敗を招いてしまう。砂浜に打ち上げられたボーリスのような経験も、決して他人事ではないでしょう。
こうした物語を知っておくことが、人生のさまざまな局面を豊かに生きることにつながるのではないかと思います。この絵本はある意味で特別な形の友情を描いた話ですが、同時に「自分の限界」と「自分の予想を超える何か」が交差する、人生の不思議さと面白さを教えてくれる一冊でもあります。


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