E.L.カニグズバーグ/著 1967『クローディアの秘密』 松永ふみ子/訳 岩波書店 1975
秘密の冒険はこころの成長につながる。これはこころの成長を考える心理学的な観点からも、とても大切な観点であると思います。大人からすると、子どもが突然姿を消して、冒険に出るのは、心配でたまらない出来事ですが、物語りを通じて内的な冒険に出かけるのであれば、安心して見守れるでしょう。
さて、今回紹介するのは、カニグズバーグの『クローディアの秘密』。原作名は”From the Mixed-up Files of Mrs.Basil E.Frankweiler”(フランクワイラーさんのたくさん詰まったファイルから)という不思議なタイトルです。
家出をすることで成長する?
主人公はクローディアという12歳の女の子。とくに自分でも理由が分からないけれども、「家出」をしたくなった。親とけんかして飛び出したとか、そんな理由ではなさそうです。感情に任せて飛び出すのではなく、どこかに身を隠して過ごす、という計画的な家出でした。計画のためには費用が足りない。そのために、口が堅くて、お金をしっかりとためている弟のジェイミーを計画に誘うことにしました。ある意味では、弟を巻き込んだともいえます。
さて、二人はある日、スクールバスに隠れて終点の駐車場まで行き、電車に乗り換えて、家出をします。行く先はメトロポリタン美術館。アメリカを代表する大きな美術館です。二人はそこに「住むこと」にしました。
二人は美術館に隠れて住み始めます。昼間は観客に紛れて過ごす。閉館後はトイレに身を隠し、ひと気がなくなってから外に出る。そして展示している貴族の古いベッドで寝る。というような生活を送ります。
あるとき、クローディアはミケランジェロが作ったとされる天使の彫刻を見つけます。それは誰が作ったのか、明確な証拠はないとされました。クローディアはその像の台座に、ミケランジェロと思わしきサインがあるのをみつけます。それを美術館に手紙で(つまり間違いなくミケランジェロであるという発見をした!という思いです)伝えるのですが、美術館もそのサインの存在は知っているけれども、さまざまな可能性を検討して、それが本物のサインかどうかは議論の余地があるという返事をします。クローディアは自分の大きな発見が、美術館も考えていたと知り、がっかりします。しかし確証を得たいクローディアは、その像の元の持ち主であるフランクワイラーさんに聞きに行きします。クローディアは、そこで像の秘密を知るというのが核心です。
勉強するということ
フランクワイラーさんは美術収集家なのですが、その彼女のセリフがなかなか示唆的です。
少し長いですが、引用します。
「あんた方は勉強すべきよ、もちろん。日によってはうんと勉強しなくちゃいけないわ。でも、日によってはもう内側にはいっているものをたっぷりふくらませて、何にでも触れさせるという日もなくちゃいけないわ。そしてからだの中で感じるのよ。ときにはゆっくり時間をかけて、そうなるのを持ってやらないと、いろんな知識がむやみに積み重なって、からだの中でガタガタさわぎだすでしょうよ。そんな知識では、雑音をだすことはできても、それでほんとうにものをかんじることはできやしないのよ。中身はからっぽなのよ」p.225
これはクローディアが、美術館にいるときでも、毎日勉強をしていたということへの返事です。これはいわゆる勉強とは何かを教えてくれているといえるでしょう。
クローディアの直前のセリフから考えると、彼女は毎日勉強をする真面目な子どもだったことが伺えます。しかし勉強をして、良い子でいる。そういう生活を続けているだけでは「何のためにそんな生活をしているのか」が分からなくなってしまった。本当に自分がしたいことは何か。それを考えて家出をしたといえるでしょう。
しかし家出をしてもすることは「毎日勉強をする」。つまりそれまでの生活パターンを繰り返すだけ。場所は変わっても、することは同じなのです。
そこでフランクワイラーさんは助言をします。知識を積み重ねるだけでは不充分。自分の中で膨らませて、本当に自分の身になるもおを身につけなくてはならない。ということです。
この部分を読んで、私自身として示唆的だなと思ったのはこのただ知識を膨らませるだけでは充分ではないという部分です。というのも、最近はインターネット、SNSそしてAIを駆使することで、知識は手軽にしかも大量に身に着けることができます。しかし、そういった知識を「自分のなかでしっかりと膨らませる」ことができているでしょうか。
新しく手に入れた知識も、膨らませていないと、すぐに忘れてしまう。つまり中身が空っぽの知識ばかりを見つけているかもしれない。
人生に役立つ本当の知識というのは、自分の中でしっかりと膨らませたものかもしれない。そのためにはときにはクローディアのように冒険をして、しかもそれを「自分の秘密」として大切に抱えておく。それが将来に大きな財産として残るものになるのかもしれない。
こころを成長するために、どのように知識を身に着けていくのか。そういったことを教えてもらえる物語りです。


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