エドワード・アーディゾーニ 『チムとゆかいなせんちょうさん』 1936年
瀬田貞二 訳 福音館書店 1963年
子どもの頃、あなたの夢は何だったでしょうか。
「船乗りになりたい」
そんな憧れを抱いたことがある方もいるかもしれません。
なりたかった夢を実際に叶えてしまった子どもが、どのような体験をするのか。働くことの厳しさと楽しさ、そして自然の恐ろしさ。本作はそれらを描いた作品です。
海のそばで育った子どもの夢
作者のアーディゾーニは海の近くで育ったそうです。彼自身の幼少期を投影したのか、主人公のチムもまた海の傍に暮らし、船乗りになることを夢見る男の子です。絵を見ると、まだ小学生くらいでしょうか。体は小さくても自分の意思で動き、考えることができる少年です。
ある日チムは、引退した元船乗りのおじいさんとともに、港に停泊している船を訪ねます。おじいさんがかつての仲間と話し込んでいる隙に、チムはこっそりと船内に身を隠しました。友人とのお喋りに夢中になったおじいさんは、チムのことをすっかり忘れたまま帰ってしまいます。そして船は、チムを乗せたまま出港してしまいます。
すぐに見つかったチムですが、船長から「働かない者は乗せておけない」と告げられ、掃除や調理補助などの仕事を命じられます。チムが懸命に働いたからでしょう、次第に船員たちにも受け入れられ、船の生活にも馴染んでいきます。
しかしある日、激しい嵐が船を襲います。チムはひどい船酔いで動けなくなります。そのとき、彼が気づかないうちに船は座礁し、沈み始めていました。船員たちが急いで脱出する際、またしてもチムは忘れ去られてしまいます。
残された船内でチムは船長と出会います。船長は沈みゆく船と運命を共にしようとしていました。チムは船長と手をつなぎ、静かにそのときを待ちます。
「夢をかなえる」ということ
自分の夢をかなえようとするとき、私たちは「良いこと」ばかりを想像しがちです。しかし、いざそれが現実となると、私たちはその裏側にある課題に直面します。
チムが経験したように、仕事には過酷さや恐ろしさが伴うこともあります。それでもなお、夢見ていた時と同じように「これを続けたい」と思えるかどうか。こういった現実の重みを受け入れる過程にこそ、人が責任を持って働く大人へと成長する鍵があるのかもしれません。
物語の終盤、チムと船長は奇跡的に救助され、懐かしい故郷の町へと帰還します。両親やおじいさんとの再会を果たし、物語は一旦幕を閉じます。
さて過酷な経験をしたチムは、その後どうしたのでしょうか。
実はこの後、チムが世界中の海を巡る物語シリーズが続いていきます。つまり、チムはあれほど恐ろしい目に遭いながらも、夢を諦めなかったのです。
夢をかなえる過程では、想像を絶する困難に出会うこともあるでしょう。けれど、そこで歩みを止めずに踏みとどまったとき、視界はさらに広く開けていくのかもしれません。
繊細で美しいペン画が印象的なシリーズ第1作。人生の荒波に立ち向かう勇気を、教えてくれる一冊です。


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