斉藤洋 『ルドルフとイッパイアッテナ』 講談社 1987
『ルドルフとイッパイアッテナ』シリーズの第1作目です。このシリーズは、黒猫のルドルフが活躍する物語で、味のある絵柄とともに子ども心に強く印象に残る本です。
さて、どのような物語なのか説明していきます。
ルドルフはある地方都市に飼い猫として暮らしていました。ある日、魚屋からシシャモを盗んだところを見つかってしまい、店主に追われてトラックに逃げ込みました。そして、気づいたら辿り着いたのは大都会。そこで出会ったのが、人間の言葉を理解する大きなトラネコの「イッパイアッテナ」でした。ルドルフはイッパイアッテナに町での暮らし方を教えてもらうなかで成長していく。そういう物語です。
イッパイアッテナというのは、ルドルフが名前をたずねたときに、野良猫なので町の人から色々な名前で呼ばれるため、名前が「いっぱい、あってな」と答えたのを勘違いしたことに由来します。このイッパイアッテナは、人間の言葉を読み、そして書くこともできるという能力があります。それによって、人間の世界を理解し、ゴミ漁りをせずに暮らすことができるのです。たとえば、学校に行き、給食にシチューが出るときだけ給食室に出かけて、シチューのおこぼれをもらう、などです。
イッパイアッテナは「教養が大事」と繰り返し言います。それはエサにありつけるという生活に役立つ能力というだけではなさそうです。大げさに聞こえるかもしれませんが、それは生き方を変えることにつながるからです。
ルドルフの生き方を変えた教養
ルドルフは都会にやってきたとき、自分の町に帰りたいと思いました。しかし、今いる町がどこなのか、元々住んでいた町がどこなのかも、わかりません。それを理解するための「知識」がなかったからです。
しかし、イッパイアッテナと交流するうちに、文字を教えてもらい、少しずつ教養が身についてきます。それによって、自分が今住んでいる町が東京であり、ふとしたきっかけで住んでいた町がどこなのかもわかるようになります。
つまり、自分がこの先どう生きていけばいいのか方向性を見つけて、目標を叶える方法がわかったのです。それは「知識が身についていなければ」できなかったことでした。
ただし、イッパイアッテナが教養を身につけた利点はそれだけではなさそうです。
イッパイアッテナの生き方を支える教養
イッパイアッテナは自分にエサをくれる人を見つけるのが上手なようです。それは「良い人」を見つけるだけではなく、「人間の事情」を詳しく知っているからとも言えます。つまり、観察力があるのです。
ここのおばあさんは一人暮らしで、口は悪いけれども、何かエサを必ずくれる。閉店間際の魚屋に行ったら、売れ残った魚を次の日に残せないからといって、店主が魚をくれる。夏休みに学校に一人で出勤している先生に声を掛ければ、涼しい部屋で過ごすことができるなどです。
イッパイアッテナが交流しているこういった人たちは、孤独に暮らしていたり、癖があったりするのですが、どこかネコには優しい人たちです。イッパイアッテナもそういった人たちの生活状況や考え方、人柄を理解しているからエサにたどりつけるのです。
教養を身につける。何か勉強をしてたくさんのことを学ばなくてはならない、と思って敷居が高いと感じるかもしれません。
しかし、この二匹のネコの様子を見ていると、教養とはそのような難しいものではないと気づかされます。
世の中のいろんなことに興味を持つこと。そして、自分でいろいろと調べてみること。身につけた教養によって、人や物事とかかわりながら、さらに知識を磨いていく。そうすることで、自分の生き方が見つかったり、考え方が広がったりする。それが教養なのだと思います。
私もカウンセリングという仕事を始めるとき、教養は大切だと教わりました。カウンセラーとしては色々なことに興味を持って、知識を身につけておかないと、悩んでいる人のことを理解できない。だからこそ、本を読み、物語に触れることが大事なのだ。そう言われたことを思い出します。
イッパイアッテナはルドルフに見込みがあると判断したのでしょう。後半になると、ルドルフは「自分の大事な相手」を助けるために、教養を駆使するようになります。役立たないような事でも良いので、いろんなことに興味を持って学ぶことの大切さ。それをノラネコから学ぶことができました。


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