ジョーン・G・ロビンソン 1967年 『思い出のマーニー』 高見浩 訳 新潮文庫 2014年
夏休みが終わるとき、読みたくなる物語りがあります。『思い出のマーニー』。記憶に残る印象深い物語りです。
スタジオジブリで映画化もされた作品ですが、その原作です。映画を見た方も、ぜひ原作を読んで頂きたいと思います。
この物語りの主人公はアンナという女の子です。アンナは早くに両親を亡くし、養母のもとに引き取られました。しかし、その養母の家を自分の居場所とは感じられず、孤独を感じていました。ある日、養母の友人の家でしばらく過ごすことになりました。それは都会から離れた、海沿いにある田舎の家でした。アンナはそこで「何もせずに過ごせる」ことを楽しみにしたのです。
辿り着いてしばらくは一人で過ごしていました。ある日、海沿いに古い館をみつけます。なぜかアンナにとって、とても印象深い建物でした。そして、空き家のはずなのに、そこから視線を感じるのです。さらに数日過ぎたある夜、アンナは家を抜け出し、海でボートに乗っていました。しかしオールを流され、困っていたところ、そのボートを引き寄せてくれる人がいました。それは金髪の長い女の子、マーニーでした。
マーニーとアンナは毎日のように二人で遊ぶようになります。しかしマーニーはなぜか、自分のことを秘密にするように言います。アンナはその約束を守って、誰にもいわずにいました。
マーニーは風車の建物を怖がっていました。アンナはそれを知って、自分がまず風車の建物を訪れて、そこが大丈夫だとマーニーに教えようと思い立ちました。しかし、アンナが訪れたとき、その恐怖を乗り越えようとしたのでしょうか、建物内にマーニーがいたのでした。マーニーは怯えたままで、アンナが声をかけても落ち着きませんでした。二人ともつかれて寝ているところに、マーニーのいとこが迎えに来ました。そしてマーニーは、アンナを置いて建物を出て行ったのです。それ以来、アンナはマーニーの姿を見なくなりました。代わりに、夏休みで遊びに来ていた、ある一家の子どもたちと仲良く過ごすようになるのです。
ここまでが前半の話です。
そのあと、アンナはマーニーがいない生活を送るのですが、そのなかでマーニーとは一体、誰だったのかが明らかになっていきます。そして、アンナにとってマーニーが重要な人物であるかが明らかになります。アンナはそれを知って、孤独を抜け出すことになります。
想像上の友だち
この物語りを読んで、心理学の知識がある人であれば、まず連想するのが「想像上の友だち」といわれる現象です。孤独や寂しさ、不安を抱えている幼い子どもが、自分の空想上の友だちを作り上げて、その友だちが「あたかも実在するかのように」話をするという現象です。
アンナも親を亡くし、養母に育てられる生活の中で、ふとしたきっかけで養母に対する不信感を抱いたのです。その不信感によって、誰も信じることができない、自分は孤独だという思いに駆られたのです。そういった心境のなかで、こころが自由になる自然豊かな海沿いの家ですごすことになった。それがきっかけに創造力が湧き出て、マーニーと出会った。そのような解釈もできます。
こういった解釈は、あたかも「この物語りのすべてがわかった」かのような、満足感を一時的にもたらしますが、それは物語りを体験するという点においては、あまり必要ではない知識です。
私はこの物語りを読みながら感じたのは、なによりもアンナの寄る辺のない孤独感。そして、その孤独の中でマーニーと出会えたときの、心の底からの喜びと「自分は誰かに愛されるのだ」という安心感です。
マーニーの存在は、アンナのこころを深いところで支え、いわば「私は生きている価値のある人間だ」という自信を育てたともいえます。それによってアンナはある意味で「生まれ変わった」のでしょう。マーニーと出会って、その出会いの意味がアンナに理解できたあと、アンナは孤独を自分の内側に抱えられるようになったのです。アンナは以前のような不安を感じずに、養母との生活に戻っていきます。それはアンナの中に「自信が生まれた」ともいえるでしょう。
自分が一体何者であるのか。それは自分のこころを深く安定させることになります。それは親が誰だとか、誰に育てられたか、ということだけでなく、自分が何を大切にしてきたのか、ということも影響します。マーニーとの体験の中でアンナは、さまざまな自然豊かな体験をしました。単にマーニーと出会えたから変化したのではなく、マーニーと「深い体験を共有できたこと」が大切なのです。つまり、想像上の友だちがいたとか、そういったことではなく、信頼できる誰かと一緒に「深い体験をする」ことがアンナを変えたと言えます。
こころを通じて、深い体験をする。
この物語りを通じて彼女たちと一緒に深い体験をしてみてください。


コメント