【書評】こころの奥底で自分を支えるもの アンデルセン『マッチ売りの少女』

書評

『アンデルセン著作集 マッチ売りの少女/人魚姫』 新潮文庫 2015年

アンデルセンの童話集を読みました。ここには「親指姫」「人魚姫」「赤い靴」といった有名な童話のほか、いくつかの作品が収録されています。そのなかでも読んでいて印象深く、しかもどのように受け止めればよいのかと悩まされた話が「マッチ売りの少女」です。

有名な話ですが、いつものようにまずは物語りをまとめたいと思います。

ある女の子が大みそかの夜、雪の降る寒いなか、靴も履かずに外を歩いていました。エプロンにマッチをたくさんいれ、手にはマッチの束を握りしめています。しかしだれもマッチを買ってくれません。

窓から家の中をみると、大みそかを祝うご馳走を並べている様子が見えます。女の子の家は貧しいです。マッチを売らずに帰っても、怒られるだけです。女の子は手が寒さでしびれてきたので、マッチをすって温まろうと考えました。

1本目のマッチをすると、ストーブの前にいるような温かさを感じました。しかしすぐ消えてしまいます。2本目のマッチをすりました。今度は家の壁が透けるようにみえ、テーブルの上にごちそうが並ぶ様子が見えました。それもすぐに見えなくなりました。さらにマッチをすると、今度は立派なクリスマスツリーが見えます。そこに手を伸ばそうとするとまた見えなくなりました。

さらにもう一度マッチをすると、まわりが明るくなり、そこにおばあちゃんがみえました。女の子は、おばあちゃんに「わたしもいっしょに連れていって」といいました。女の子はおばあちゃんが消えてしまわないように、残っていたマッチを全部すって火をつけました。マッチは明るく燃え、おばあちゃんが女の子を抱え、空に昇っていきます。

翌朝、窓の下で口元に笑みを浮かべたまま女の子が亡くなっていました。

このような物語りです。

 

貧しさと子ども

原作を読んでみるとわかるのですが、この亡くなった女の子が凍えている描写など、かなりリアリティがあります。つまり、空想上で作った物語りというよりも、実際にこのように貧しさに苦しみながら亡くなっていった子どもたちの姿を、作者が見たことがあるのではないだろうかとも思わされるような描写なのです。

つまり幼く、貧しく、そして子どもの頃から働かないと生きられない状況。にもかかわらず、生活ができずにそのまま亡くなってしまう。そのような子どもたちがいた、という話です。

現代の日本で暮らしていると、そのような状況にいる子どもたちについて想像はできないかもしれませんが、それは日本にいると見えないだけで、世界に目を広げると、そのような子どもたちは、まだまだいます。ただし、この書評ではそういった貧しさについて焦点を当てるのではなく、この物語りを読むことで、私たちのこころに何が届けられるのか、について考えます。

 

苦しみのなかでこころを支えるもの

マッチ売りの女の子は、大変苦しい状況にあります。寒くて体が凍える。しかもマッチは売れない。マッチが売れたところで、大きなお金が入るわけでもなく、生活が楽になるわけではありません。また突然宝石が届けられる、というような奇跡も起きない。いいかえると、女の子が頑張ったところで、どうにもならない状況です。

そういったどうにもならない現実、つまり外の世界には救いがないとき、女の子が見つけたのは、自分のこころの世界でした。マッチの光を通してみたのは、女の子の内側にある心象風景だったのでしょう。そこで女の子は出会います。自分のこころを支えてくれる、おばあちゃんと。

 

外の世界に頼るものがないときに、自分の支えとなるのは何でしょうか。それは自分のことを思いやってくれる誰かかもしれません。その人がひとりいるだけで、こころは深く支えられるのです。

そこからもうひと段階、考えたいと思います。自分は誰かにとってそのような人になれるのだろうか。

つまりマッチ売りの少女の姿をみて、かわいそうな女の子と思って見過ごしてきたのは私たちかもしれない。しかし、気づいたとしても、どのように支援をしたらよいのかもわからずに、過ぎ去るかもしれない。それも一つの現実だと思います。アンデルセンはそのような現実を描き出しているともいえます。

しかし、自分の身近な人たちに目を向けるとどうでしょうか。自分のなかにも大切な人がいるかもしれない。または誰かが自分のことを大切に思ってくれているかもしれない。そのようなことに思いを巡らせていると、自分のいのちをどのように生きるのか、ということについて深く考えさせられます。

マッチの光は、ひとつのきっかけでしょう。光によって、自分のこころの内面が映し出されるのです。自分が深く悩んでいるとき、マッチをすればどのような情景が浮かぶでしょうか。そして、そこに誰がいるでしょうか。それがわかったとき、自分の生きるための力を得られるかもしれません。

プロフィール
この記事を書いた人
三輪 幸二朗

Mitoce 新大阪カウンセリング代表
臨床心理士

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