【書評】どんな一生を送りたい? ザルテン『バンビ』

書評

フェーリクス・ザルテン/作 1923年 『バンビ 森の、ある一生の物語』上田真而子/訳 (岩波書店 新訳2010年)

一生をどの世に生きるか考えたことはあるでしょうか。今回はディズニーの昔の映画でも作品化された子鹿のバンビ、その原作『バンビ』を読みながら振り返りたいと思います。

バンビは森の中で生まれた鹿です。母親によって育てられたあと、自ら自立してひとりで森の中で暮らすようになり、そして、いろいろなことを学んでいくというストーリーです。バンビは様々な森の動物と交流をしながら、森の世界とは何かについて学んでいく中で、成長していきます。

バンビは生まれたとき、母親と二人きりでした。母親はほかの鹿から離れて、一人でバンビを生み、育てていきます。そのとき、バンビは愛情溢れる母親の世話を受けて育っていきます。しかしあるとき、二人でいつも移動しているはずなのに、母親が姿を消します。しばらくすると戻ってくるのですが、また次のときにはどこかに消えてしまいます。バンビはなぜ母親が消えてしまうのか分かりません。しかし、そうしていくうちに、バンビは母親と離れて過ごす時間が増え、やがて母親がバンビの前からいなくなり、ひとりで暮らすようになります。

その母親が一緒に過ごしていたときに教えた、森の危険がありました。それは「あいつ」です。あいつは第三の腕をもっており、それを構えると、雷のような音がしたあと、動物の命を奪ってしまうという力があります。あいつが森に現れると動物は逃げまどうのですが、そのたびに犠牲が出ます。それが母親のおそれていた森の危険でした。

あるとき、あいつが現れ、バンビは森の中を逃げていました。その途中で母親とすれ違うのですが、それきり二度と会わなくなってしまいます。そのためバンビはひとりで生きていかなければならなくなります。

さて、この物語で重要なキャラクターがいます。それは「古老」と呼ばれる、年をとった鹿でした。普段はどこに暮らし、どのような行動をしているのか誰も知りません。知恵があり、皆から畏れられると同時に尊敬されている存在です。その古老に、バンビはなぜか気に入られました。バンビが困っているときに突如現れて、声をかけていきます。あいつから逃げるにはどうすればよいか、見つからないためにはどうすればよいかを教えます。

つまり、バンビは幼い頃に母親から愛情を教わり、そして古老から生き抜く術を教わったのです。

 

バンビの背景

バンビの物語では、恐ろしい狩りをする人間(それが「あいつ」の正体ですが)が描かれますが、同時に作者のザルテンも狩猟をする人でした。この辺りは矛盾を感じる部分です。しかし日本でも狩りを生業とする方々が、山や森のこと、そしてそこに暮らす動物への深い理解と敬意を持って生きていたことを考えると、その矛盾も説明できるかもしれません。

またこの物語で描かれる、もっとも残酷な場面は、大勢の人間を集めて一度に動物を狩っていく場面です。動物は恐怖におびえながら森の中を逃げまどい、または姿を消して命を守ります。この背景には、ユダヤ人であるザルテンが第一次世界大戦後に経験した不安定な社会情勢のなかで暮らすことが影響しているのではともいわれています。

つまりいろいろな環境や社会状況において起こる苦難の中で、どのように生きていくかとうテーマと智恵をこの物語りは伝えようとしているのかもしれません。

智恵の溢れる存在であった古老もやがて年を取っていきます。死期を察した古老はバンビに告げます。「あいつ(つまり人間)はみんながいうように全能ではない」、そして別の方が上にいると、神の存在について語ります。そして最後を迎えるときには「われわれのだれもがひとりなのだ」といいます。

バンビの一生を読みながら考えさせられます。どれほど幼い頃に多くの愛情を受けて育ったとしても、誰もが最後はひとりで迎えなければならない。しかし、限りある一生だからこそ、生きる術を学び、どう生きるかを慎重に考えていかなければならない。そして学ぶときには、さまざまな人(バンビは動物ですが)との交流のなかで、しっかりと自分で考えて判断することが大切です。また、信頼できる人の存在が、その道を指し示すことにもなる。ということでしょう。

この物語は、世代継承というテーマも含んでいます。生まれてから死ぬまでの一生をどう生きるか、考えさせられる話です。

ご自身の人生について、じっくり考えてみたいと思われた方は、人生の道をともに考える場所として、カウンセリングをぜひご利用ください。

プロフィール
この記事を書いた人
三輪 幸二朗

Mitoce 新大阪カウンセリング代表
臨床心理士

Mitoce 新大阪カウンセリング
電話番号:06-6829-6856
メールアドレス:office@mitoce.net

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