林明子『こんとあき』 福音館書店 1989
林明子さんは優しい絵柄と、ゆたかな子どもの表情を描く作品で有名な絵本作家です。数多くの名作を生みだしていますが、そのなかでも人気のある『こんとあき』を今回は取り上げたいと思います。
『こんとあき』は、主人公は女の子の「あき」。あきが生まれたとき、「さきゅうまち」に住むおばあちゃんの家から、きつねのぬいぐるみの「こん」がきました。こんは、あきの見守り役として、いつも一緒にいます。しかし、あきが大きくなった頃(4、5歳ぐらいでしょうか)、こんの腕がやぶれてしまいます。それを治してもらうために、おばあちゃんの住むさきゅうまちに2人で行くことになりました。
2人きりの旅行です。しかも電車で行かないといけないぐらい遠いのです。心配そうなあきに対して、こんは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と声をかけます。しかし、大丈夫でないのはこん。ドアにしっぽを挟まれたり、たどりついた「さきゅう」では野犬につれていかれて、砂に埋められたりします。それでも「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とこんはいいます。
砂から掘り出したこんを、あきは背負い、おばあちゃんの家までたどりつきます。そして、こんは元どおり、直してもらいます。という話です。
子どもが巣立つとき
子どもが成長をするときに、どのように自立するのか。この本で描かれたようなテーマがカウンセリングの場面で語られることがしばしばあります。そのとき伝えるのは「しっかりと誰かに守ってもらって自分は大丈夫だ、という自信が出来たら、おのずと自立する」ということです。
たとえば、子どもに早く自立してもらいたいと思って、「自分でしなさい」「自分で考えなさい」と強く言っても、あまり自立にはつながりません。
これはある程度、成長しても同じです。「働きなさい」「自分で生活をする準備をしなさい」などと言っても、ほとんどの場合、効果はないでしょう。
なぜなら「この子どもは自分ひとりではできないし、考えることもしない」「働く気持ちもなく、一人で生活の準備もできないだろう」という不信感があるからです。この不信感の方が子どもに伝わるからです。
それよりも「一緒に手伝ってくれると嬉しい」「なんかいい考えない?」など、子どもの力を信じてかかわる方が、子どもは「信頼してもらえている」と思うかもしれません。
そういった話しかけをする必要がない場合もあります。こちらが困っているときには自然と「手伝おうか」と声をかけてきたり、「こういう考えがある」と自分から言ってくる子どももいます。それは「自分はだいじょうぶ」だという自信が身についている子どもたちです。
自分で何とかする力が育つには
では、こんとあきの場合はどうでしょうか。
こんは、あきに対して積極的に何かを話しかけているわけではなさそうです。しかし、いつも一緒にあきといる。つまりあきと同じ立場で物事を見ている。自分のことを大事に思ってくれる相手がずっと傍にいる。それはあきのなかに、安心のもとがいつもいるという状態です。
おばあちゃんの家まで電車に乗って旅に出る。とても不安な状況ですが、そんなときでも「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言ってもらえる。だから、こんが砂に埋もれたあと、動けなくなっていても、あきは「だいじょうぶ」と思えておばあちゃんの家にたどり着けた。
こんの働きかけが、あきの自信を育てていたのです。
これを大人のこころに当てはめるとどうでしょうか。
失敗しても大丈夫と思える
何かを始めたり、失敗をしそうなときに「だいじょうぶ、だいじょうぶ」という内なる声が聞こえてくるでしょうか。もし聞こえるのであれば、不安が強くても「大丈夫」と思ってなんとかチャレンジできるかもしれません。
しかしながら「不安ばかりで動けない」「そもそも動くのさえ怖い」。そういったとき、自分のこころの中に「だいじょうぶ」と育てる必要があるのかもしれません。そのためには「だいじょうぶ」と見守ってくれる人を探してみてください。
もし見つからなくても「だいじょうぶ」です。自分ひとりでも「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と自分を信頼して声をかけてください。それが自分を育てるきっかけになるかもしれません。
「だいじょうぶ」という気持ちを自分のこころに育てたい方。カウンセリングでもお手伝いできるかもしれませんので、よろしければ気軽にご相談ください。


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