『まど・みちお詩集』谷川俊太郎/編(岩波文庫、2017年)
誰もが知っている童謡『ぞうさん』。この歌詞を書いたのが、まど・みちおさんです。 詩人として104歳まで現役で活躍されたまどさんは、日本に生まれ、戦前は台湾で過ごし、戦後再び日本へと帰国する波乱の時代を生き抜きました。
まどさんの詩には、どこかやわらかく、そして優しいまなざしが込められています。 たとえば、この代表的な詩を読んでみてください。
『ぞうさん』
ぞうさん
ぞうさん
おはなが ながいのね
そうよ
かあさんも ながいのよぞうさん
ぞうさん
だれかが すきなの
あのね
かあさんが すきなのよ」
P.53
まどさんのこうした感性は、幼少期から培われてきたそうです。幼い頃のまどさんは、どこか寂しさを抱えつつも、非常に感受性の強い子どもでした。
「五感に映るすべての物事が、なんとも新鮮で、神秘的で、そして寂しくてならえず、子供のくせによく胸が切なくなりました」 (P.15)
感受性の高い子どもは、周囲から理解されないことも多く、また「自分の感じていることは周りには伝わらない」とどこかで察知しているため、深い孤独や寂しさを体験していることが少なくありません。
当時、家族はすでに台湾に移り住んでおり、まどさんは日本の田舎で祖父と二人暮らしをしていました。その環境も影響していたのでしょう。まどさんは暮らしの中で、蝉の声にさえ「神秘」や「寂しさ」を感じていたといいます。
「私たちこの世の生き物が自分で生きているのではなくて、なにかによって生かされているのだという紛れもない事実からの重圧だったように思えてなりません。その重圧の、神々しいような、有難いような、悲しいような『どうしようもなさ』を、幼い私の心が聴覚を通じて無意識的に体感してたのだろうと思うのです」 (P.16)
幼い子どもは、何もわかっていないのではありません。むしろ「わかりすぎている」のだけれども、それを言葉にできず、体感として引き受けるしかない。ときにはその重圧に、どうしようもなさを感じることさえあります。その体感はこころの奥底に静かに残り続け、ときにはそれが「詩」という言葉になって現れるのです。
その感性は、物事の表面ではなく、その奥底までも見通します。 本書の編者である谷川俊太郎さんは、次のように述べています。
「目に見えるリアリティではなく、見えるものの奥にひそむ謎めいたリアリティこそ、絵においても、詩においてもまどさんが目指したものだったからだと思います」 (P.348)
まどさんは詩だけでなく、多くの抽象画も残しています。その画集を眺めていると、まどさんの本領は画家にあったのではないかとさえ思わされるほどの迫力があります。
カウンセリングと子どものこころ
カウンセリングでは、ご相談に来られた方の「子どもの頃の話」を伺うことがあります。それは、幼少期に形作られた「こころのありよう」が、大人になってからの悩みや考え方、感じ方、そして生き方に深く影響していると考えるからです。
しかし、幼い頃に育った感性は、決してマイナスの影響を与えるだけではありません。人生を振り返り、「自分にとって本当に大切なものは何か」を問い直したとき、その答えは幼い頃に大切に感じていた「何か」の中に見つかることが多いのです。
まどさんの詩を読んでいると、自分の中に眠っていた「大切なもの」がふと蘇ってくる。そんな感覚を覚えます。


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