「カウンセリングを辞めるとき?」カウンセリングを受けようか迷っている人に向けて。第6回

インタビュー

カウンセリング終了の瞬間

――ここまで興味深い話をいろいろと聴かせて頂きました。前回はカウンセリングではどのような話をされるのかを中心に伺いました。そこで今回はカウンセリングを続けるとどうなるのか、そしてカウンセリングを受けることで、最後はどのように終了するのかを伺いたいと思います。よろしくお願い致します。

Mi:よろしくお願い致します。

――それでは早速ですが、前回の話の続きとして伺いますと、カウンセリングではカウンセラーと話をしながら、自分の内側にある悩み事を話します。それによって少しずつ気持ちや考えを整理し、心の状態が変わっていく、という理解をしておりますが、よろしいでしょうか。

Mi:はい、そのような理解で良いと思います。

――そこで疑問が浮かんだのですが、話すことで気持ちや考えが少しずつ変わるのは体験的にも理解できるのですが、結局そのあとどのような状態になるのを目指すのでしょうか。そのあたりをお教え頂いてもよろしいですか。

Mi:そうですね、そのあたりは確かにカウンセリングを受けたことがない人にはわかりにくいでしょうし、現在カウンセリングに通っている方も知りたいと思います。
カウンセリングが何を目指すかは理論的な説明がいくつかあるのですが、私の考えとしては「自分で自分の悩み事を、ある程度対処できるようになること」です。これはよく考えるとかなり難しいのですが。

――悩み事にある程度対処できるというのは、達成できそうな目標に伺えますが。

Mi:たとえばカウンセリングで「悩みがなくなること」を期待して、来談される方がいるかもしれません。しかし悩みをゼロにするというのは、余程のことでないと不可能だと思います。お釈迦様のように悟りを開いた人などでないと無理かなと。カウンセリングは悩みをゼロにするのではなく、「自分で自分の悩みをある程度解決できるようになる」のが現実に即した目標でしょうね。
精神科領域でよく言うのは、症状をゼロにするのを目指すのではなく、日常生活に困らない程度にコントロールできるようになるのを目指しましょう、ということです。
どんな方でも精神状態には波があります。精神病や症状といわれるのは、その波がコントロールできないぐらい強まっている状態といえます。波をゼロにはできないけど、ある程度コントロールできるようになることを目指す。たとえば気分の落ち込みがあるのであれば、気分の落ち込みが強まって何日も動けないというのは、コントロールができない状態です。しかし気分の落ち込みがときどきあるけど、無理をせず休んでいたらしばらくすると治まった、というのがある程度のコントロールです。

――それは難しいのでしょうか。

Mi:簡単そうに見えて、かなり難しいです。たとえば、うつ症状を抱えている人たちは、自分の精神状態をコントロールするのがどれほど難しいかを実感していると思います。うつ状態が治まって調子がいいと思う期間がしばらく続いていても、またある日突然、調子が悪くなる。しかも良いと悪いの波が何度も繰り返します。寝てもなかなかしんどさが取れない。
コントロールができるようになってくると「ちょっと無理をしているから早めに休もう」「かなり精神的に追い込まれ始めたから、とりあえず気持ちを切り替えよう」といったことができるようになります。それができるためには、自分の状態を客観的に見る、こころの状態をコントロールする方法を身に着けることが必要になります。とくに自分の精神状態を把握するのは難しい。「今日は調子がいい」と思っていても、実際はかなり無理をしていて、場合によっては躁状態になっているときもあります。だからカウンセラーという第三者との話し合いを通して、自分の精神状態を知るのです。

カウンセリングを続ける理由はある?

――そうなるとカウンセリングを続けるのはどのような理由でしょうか? ある程度状態がわかれば、通わなくて済むという事でしょうか。

 Mi:数回の面談で自分を客観的にみることができて、こころの状態を整えるスキルを身に着ける、というのは理想でしょうが、実際は難しいですね。「精神状態に波がある」「状態を整えるのはこのような方法がある」と知識を得ても、実践できるようになるのかどうかは別です。
というのも普段通りの生活をしていると、いろいろな出来事が起きます。家の中でも、外であっても、家を離れて入院生活送っていても、こころの状態が何も変化しない環境にいることはできません。日常の出来事でこころは揺れ動くのですが、本人も「揺れ動いている」ことを理解できても、「どうして揺れるのか」を客観的に見ることはできません。とくに「自分のことは自分でわかっている」という思い込みがあると、「わかっているつもり」になりやすい。
でも精神的な症状が出ているのは「わかっているはずなのに、コントロールできない状態」。いいかえると「わかっているつもりだったけれども、自分ではわかっていない何らかの動きが影響して」、こころの症状が現れます。「わかっていない何らかの動き」が「ある程度、わかってくる」ことを目指すのがカウンセリングです。

――つまり、自分が気づいていない潜在意識があり、それを明らかにすることで、悩みが自分で解決できるようになるということでしょうか。

Mi:大まかな理解はそれで良いと思います。その潜在意識を無意識といったり認知のパターンと専門的には言えるでしょうが、大まかにはその理解で良いと思います。

画像

カウンセリングを卒業する

――カウンセリングに通いながら行動や考え方の微調整をして、それが自分でできるようになるとカウンセリングを卒業できるということですか?

Mi:それができるようになると卒業というのも、ひとつの方法ではあります。というのも、実際にはカウンセリングを終了するかどうかは本人との相談になるので、「こうなったら卒業」というのは一般化がしにくいです。
カウンセリングを始めたときに、「うつで仕事を休んだ」など明確な事情があったとします。カウンセリングを受けているなかでうつが治まって、仕事の復帰したあとも安定している。そのような状態であるとカウンセリングを卒業するかどうかを考えると思います。それは症状を中心にみたときですが。
一方で、私は深層心理学を専門としているので、症状がおさまったとしても、こころに抱えている悩みのテーマは解決したとは考えません。そのため、症状の有無については、カウンセリングの始まりとしては重要であっても、その解決だけにはこだわりません。症状を発端として、自分がどのように生きていけばいいのかを人生全体を考えていくというテーマに移行していく人もいます。そのようなケースであると、本人とカウンセラーが互いに納得できた時点で、カウンセリングを卒業を検討するという形になります。

――興味深いですね。人生について考える。かなり深そうですが。

Mi:そうですね、カウンセリングをしていくうちに深い体験をして、自分なりの生き方を見つけていく人もおられます。

――割合としては、どの程度の人が深いカウンセリングを受けるのですか?

Mi:感覚的な印象ですが、私のカウンセリングに始めて来談された方の3割ぐらいでしょうか。そもそもカウンセリングに来られても、私との相性も含めて、さまざまな要因からカウンセリングを辞めることを選ぶ方がおられます。または症状が治まったら、自分には必要ないと考えてカウンセリングに来なくなる方もおられます。

――それは連絡なしに?

Mi:連絡を下さる方もいれば、連絡なしにキャンセルをして、そのまま来談しなくなるというケースもあります。もちろん私からも連絡することもあるのですが、つながらないこともあるので。
このキャンセルについてはクライエントの色々な思いが込められている部分があり、一概にクライエントの都合でキャンセルしたとは言えません。その都合について、しっかりと考えるのがカウンセラーの仕事でもあります。

――突然のキャンセルは、売り上げとしては困らないですか。

Mi:もちろん経済的には困りますが。それ以上にクライエントの状態について、考えをめぐらせつつ待つしかないというのが実際ですね。

人生を深く考えるカウンセリング

――こうして聞かせて頂くと、これまでのカウンセリングに対するイメージが大きく変わります。ただ優しく話を聴いて下さるとか、悩みについてアドバイスをもらって終了とか、もしくは症状が治まったら卒業とか、そのようなイメージを持っていました。
Mi先生の専門が深層心理学というのもあるかもしれませんが、人生を深く考えるためのカウンセリングというのが理解できます。

Mi:私の感覚としては、自分の人生を深く考える必要がある人には、そのようなカウンセリングに自然となっていく。しかし、症状の消失が目的の人は、とりあえずは症状について扱う。結局、カウンセリングは「クライエント中心」と言われますが、クライエントの意向に沿う部分が大きいかと思います。私が一人で勝手に「深いカウンセリングをする!」と言っても、クライエントは「そんなの求めていません」ということもあるので。そこは臨機応変だと思います。

――それを伺うと、Mi先生がおっしゃるように、もっと敷居を低くして、それぞれの思いでカウンセリングを気軽に利用しても良いということが伝わってきますね。今回、とても貴重な機会を持たせていただきましたので、好評でしたら次回、またお話を聴かせて頂きたいと思います。それでは、Mi先生お時間を頂きありがとうございました。

Mi:こちらこそありがとうございました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました