「カウンセリングで何を話せばいい?」カウンセリングを受けようか迷っている人に向けて。第5回

インタビュー

(前回の続き)

カウンセリングで何を話したらいいのかわからない?

――前回は料金の話を聴かせていただいて、ありがとうございました。料金の話は、カウンセリングを受けようか迷っている人にとって、なかなか聞けない話題だと思いますので、あのようにご説明頂き大変参考になりました。このインタビューは「カウンセリングを受けことがない人がカウンセリングの実際を知る」というテーマですので、今日もほかでは聞きにくい話を伺えればと思います。

Mi:どうぞよろしくお願いします。

早速なのですが、お聞きしたいのはカウンセリングの実情です。カウンセリングに来られたクライエントは何を話されるのですか? カウンセリングを受けようか迷っている方にとっても「どのような話をしているのか」「何を話したらよいのか分からない」という疑問を持たれるかと思います。もちろん、守秘義務もあると思いますので説明できる範囲で結構なのですが、教えていただけないでしょうか。

Mi:クライエントの方からもしばしば尋ねられる質問です。「ほかの方は、どのような話をしているのですか」と。守秘義務のこともあるので要点を話すことになりますが、そこはご了解下さい。
カウンセリングで何を話すかというのは、まず「どういった理由でカウンセリングに来たのか」によって違います。
日本の現状ではこれまでに説明したように、カウンセリングは「ちょっとしたこころの相談」で来る人は少なくて、ほとんどは「すでにメンタルの不調が出ていて」相談に来られます。
そうなると話すことは「こころの不調に関する話」がまずは内容の中心になります。カウンセラーとしても初めて来談された場合、来談の理由、いつから悩んでいるのか、これまでどういう状態だったのかを伺います。ですので、こころの悩みの状態について話すというのが、カウンセリング初期の話題といえるでしょう。

――伺ってみると、その辺りは当たり前のことですね。

Mi:当たり前のことなのかもしれないのですが、それさえも理解されていないのがほとんどなので、質問して頂いて良かったと思います。
続きを説明させていただくと、どのような状態かわかってきたら、次にその悩みに対してどのような対応をするのかが話題の中心になります。たとえば認知行動療法などであったら、どの悩みについてどう変えていきたいのか、ある程度ターゲットを明らかにすると思います。そのあと、どのようになりたいかも確認するかもしれません。目標に向かって、何ができるのか具体的なアプローチを考えて提案し、クライエントと相談すると思います。
ターゲットが明確なほど具体的な方策も思い浮かぶので、効果の有無について検証がしやすいという利点があります。そういう意味では認知行動療法のアプローチは分かりやすい方法だと思います。
ただし私のような無意識を扱うアプローチでは少し方法は異なります。こころを深く掘り下げて突き詰めていくことが大切になります。これを深い井戸を掘る作業と象徴的な物言いをすることもあります。内界の井戸を深く掘るというのは、村上春樹の小説のオマージュです。
どういうことをするかというと、寝ているときに見た夢を報告してもらって、そのことを中心に話し合ったりします。箱庭など表現療法を用いることもあります。そこに無意識が現れていると考えるので。
これは認知行動療法と比べると、クライエント本人にとっては「どのように展開しているのか分かりにくい」というデメリットもあるので、合わない人もいるかもしれません。しかし、自分の内面を深く知り、生き方を変えていきたいという意欲を持つ方には適しています。
あとは基本的なカウンセリングですが、クライエントに思いついたことを自由に話してもらい、そのなかで自己治癒の力やいわゆる自己実現の力が働くというのを目指す場合もあります。
ほかには心理教育のアプローチがあって、こころの状態がこの後どうなるか、どのように普段の療養生活を送ればいいのかなどを確かめ、状態を安定させることを目指します。いわゆる心理的なコンサルティングといえるかもしれません。

――カウンセラーによって、アプローチが違ってくるのですね。

Mi:はい、そこはカウンセラーによって異なります。最近のカウンセリング業界の傾向を見ると、初めてこころの不調が出てきて、悩み事がはっきりしているときには、認知行動療法や心理教育的なアプローチをすることもあると思います。具体的な症状を扱うことが多いでしょうか。
たとえば私の場合ですと、うつなどのこころの不調が出てこられた方の多くはカウンセリングと心理教育で対応することが多いです。こころの内側にある色々な思いを話して頂き、整理するというカウンセリングを基本にしています。私は深層心理学の知識を用いながらカウンセリングをしていますが、クライエントからは無意識を扱っているとは思われていないでしょうね。あまり深層心理学の話はしないので。もちろん夢を報告してもらう夢分析も行いますが。私の場合は本当にこのクライエントには必要だと判断したときだけ、夢分析を提案します。もちろん、本人に選択はゆだねるので提案しても始まらないことはあります。
基本的にはクライエントの意向や想いに沿って、話を聴いていきます。

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――カウンセラーの先生がクライエントの話を引き出して、方向づけて下さるという理解でよろしいでしょうか。

Mi:ある程度はそうなると思います。ただし自由連想といってクライエントの自然な思い付きを大切にする学派もあるので、意図的に方向付けることを避けるカウンセラーもいます。私は認知行動療法をしないのですが、それ以外の方法は比較的使うので、いろいろと組み合わせています。精神科の現場で働いてきたので、純粋に「内面を深く掘り下げていく」ということだけをしていても、クライエントもカウンセリングが続けられないし、そういったアプローチを特に求めていないクライエントもいるので、いろいろと組み合わせた対応になります。

カウンセリングで話すことが無くなったとき

――カウンセリングは1回50分ですよね。そうなると話題が尽きるということはないのでしょうか。どのような話をしたらよいのかわからなくなるかもしれない。

Mi:それはありますね。そう仰るクライエントもおられます。
まず話題が無くなるというのは良く考えると不思議でして、悩み事を話すためにカウンセリングに来ていたのに「もう話すことがありません」となるんですね。ずっと悩んでいたはずなのに話題が尽きてしまう。もちろん悩み事自体は解決していないことが多いのですが。でも「これまで一人でずっと頭の中で考えていたことは、何だったのだろう」という程度に悩みの圧力が減っているといえます。ある程度意識していた表面的な悩みが、カウンセリングで話しているうちに整理されたという効果もあるでしょう。ただし本格的にカウンセリングが始まるのは、話題が尽きてからだと思います。
深層心理学の考え方ですが、こころの悩みは、こころの深いところにある何かが作用しているかもしれない。それを今の自分では捉えられないから、そのような症状が出るとします。話題が無くなったのは転機でもあり「これまでとは違う意識でカウンセリングを受けなければならない」というサインともいえます。そうすると今までと違うレベルの話をしたり、夢分析を始めたりすることがあるかもしれません。
もちろんこれは深層心理学の観点を持ったカウンセリングの話です。たとえば認知行動療法はもっと具体的なこころの問題に焦点づけていくと思います。

――カウンセリングで話す話題が無くなったら、止めるのではなくて続けるということでしょうか? 話すことがないときにでも、時間とお金をかけてカウンセリングに行くということですよね。カウンセリングは悩みを解決するために行く場所だと思っていたのですが、私が事前に抱いていたイメージと異なっています。

Mi:そうですね、表面的に悩み事を解決するのであれば、数回通って悩み事が軽くなったとき、もしくはカウンセリングを受けてもすぐに解決しないとわかったら、そこで辞めるという選択肢もあると思います。実際に、そのようにして数回でカウンセリングを卒業するか、「こんな程度なのね」とカウンセリングを辞める方もおられます。それもクライエントの選択だと私は思います。無理に引き留めることはしません。もちろん、セラピーとして必要性が高いと判断したときは、カウンセラーの見解として継続を提案しますが、最終的には来るか来ないかはクライエントの判断になります。
そして話すことがないと仰るクライエントであっても「こころの課題に取り組もう」という動きが内面で始まっている方は、カウンセリングに続けて来談されます。そして「話すことがないと思っていたけれども、こんなに話すことがあった」とカウンセリングを継続するというパターンが多いです。
私としては「特別何か話さないといけないとか、悩み事を持ってこないといけないとかはありません、カウンセリングのために話題を準備しなくても良いです」と伝えています。どうしても話すことを用意しないと落ち着かないという方には、メモなどに最近気になったことを書いてきてください、といいます。もちろん夢分析を行っている場合には「寝ているときに夢を書いてきてください」といいます。あとは宿題として何かのワークを課すカウンセラーもいるので、次回に宿題がどうだったかを確認するでしょうね。

事前にカウンセリングを受ける必要がないかどうか分かる?

――カウンセリングを受けてみて、あまり意味がないと思って辞める方もおられるということですが、それはもっと始めにわからないのでしょうか。

Mi:正直にいうと、その判断はとても難しいです。カウンセラーとしても数回受けて頂かないと判断が難しい。もちろんクライエント本人もカウンセリングを受けてみないと、カウンセリングがどういうものか分からないので判断ができない。
ですので私がカウンセリングで始めに伝えるのは、この悩みについてはカウンセリングが役立つかもしれないので、本人に継続かどうかは判断して頂きたいと伝えます。目安としては、数回通っていただければ継続するかどうかを判断できると思う、こちらもそのとき継続についての見解を説明するので、とカウンセリングの開始時に言うことがありますね。

――では受ける前に、カウンセリングが必要かどうかは自己判断は難しい…。

カウンセリングに通っている知人がいるなら、その知人に相談するか、もしくは通院中の方だったら主治医に聞くかという方法はあります。カウンセラーに直接聞くという方法はありますが、基本的にカウンセラーは「一度詳細に話を聴いてみないと判断できない」というのが本音だと思うので結局、来談して頂くことになる。
ただしカウンセリングを利用するときの目安は、自分の悩み事がこころの悩みがメインで、ほかに相談できる人がいない、一般の人の意見ではなく一度専門的な見解を聞いてみたい、というのであれば、カウンセリングを申し込むと良いと思います。この3つの条件を全部満たしていなくても、どれか1つ当てはまるだけでもよいので。

――そうなるとカウンセリングを受けるハードルは少し下がりそうですね。

Mi:はい、理想は「この悩みだったらカウンセリングに行こう」と誰でも自己判断ができるぐらいまで、一般社会にカウセリングが普及すれば良いのですが。まだまだ実現には程遠いですね。

――こころの悩みはある、しかしながら具体的にどのようにカウンセラーに相談したらよいのか分からない。そのような状態でカウンセリングを申し込んでもとくに問題はないという理解でよろしでしょうか。

Mi:全くそれで構いません。むしろほとんどのクライエントは、「自分は何故悩んでいるのかわからない」「なんとなくしんどいのだけれども説明できない」という方がほとんどです。繰り返しになりますが、カウンセリングで話す話題がないとか、自分の考えを説明できないからといって気にするする必要はありません。

カウンセリングで話す内容は個人によって違う

――そう言っていただけると、安心する方もおられるでしょうね。

Mi:基本的にクライエントが何を話すかは、その人によって違うというのが現実ですね。私のカウンセリングオフィスは大人のクライエントが多いので、話す内容は症状、仕事、家族の問題が大半ですね。カウンセリングで深めていくほど、多くの場合、家族の話や自分の成育環境について話すようになります。それは家族が原因でこころを病んだ、という単純な原因―結果の話ではなくて、今の自分を作り上げてきたルーツをたどるという理由があると思います。ルーツをたどっていく中で、自分はどのような人間かを深く知っていって、結果としてこころの悩みを乗り越えていく力が身についていく。そういう流れになることが多いです。もちろん、例外はあるので家族のことを話さない方もおられます。そういった過去のことは話さず、未来についてや、今の対人関係上の悩みだけを話す人もいます。具体的にはこういう話という典型例は、案外少ないというのが、私がカウンセリングをしているときの実感ですね。どちらかというと「このような話があるのだ」という驚きが多いです。

――なるほど、カウンセリングの実際は単純には説明できないのがよくわかります。それぞれ個性があるということですね。今回も興味深い内容をお聞かせいただきありがとうございます。
それでは今日の話はカウンセリングの実際についてお聞かせいただいたので、続きになりますが次回はカウンセリングが終わるときについてもうかがってもよろしいでしょうか。

Mi:どうぞ、それも大切なことですので話しましょう。

どのような話になるか楽しみです。それでは次回もお願いいたします。

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