「カウンセリグは何をするの?」カウンセリングを受けようか迷っている人に向けて。第2回

インタビュー

(前回の続き)

カウンセリングって何をするの?

――かなり基本的な質問をしてもよろしいでしょうか。

Mi:どうぞ、お願いします。

――カウンセリングって何をするのですか? 悩み事を聴いて下さるのはわかるのですが。話を聞いてもらったら、気持ちが楽になるのは経験上理解できます。しかしながら、こんなことを言って申し訳ないのですが、わざわざお金を払ってまで話をする必要ってあるのかと思いまして。

Mi:それはとても大事な観点です。私もそれがカウンセリングについての一般的な認識だと思っています。
カウンセリングについての理解は、基本的には「クライエントの話をしっかりと聴く」ということで間違いないと思います。ではいわゆる素人の人とプロのカウンセラーが話を聴くのは何が違うかというと「しっかりと聴く」という部分です。
「しっかりと人の話を聴く」というのは、実際にはとても難しいです。普通は誰かの悩み事を聞いたとしても「それはこう考えたらいいんじゃない?」とか、何となく「それ大変よね」と言ったりします。それは別に悪いことではないのですが、カウンセリングに来られるような深い悩みを抱えている方がそのような受け答えをすると、「それって私が悪いってこと?」「大変って、どれぐらい私の話が伝わっている?」という感覚が出ます。もちろん、そういった感覚はこころの奥に秘めて話さないでしょうが。そのうえ、生きるか死ぬかのような重い話なると、話を聞いている方もしんどくなって「そんなの考えたらだめ!」と言ったり、話をそのまま聴くのが難しかったりします。カウンセラーはアドバイスをするときも慎重ですし、共感も簡単にはしません。その代わり、ほかの人が聞けないような重い内容の話でも、しっかりと聴くことができます。ほかの人に話を聞いてもらったけれども、何か不充分だという感覚が残った。だから一度、プロに話を聞いてもらおうかと思ったという流れでカウンセリグに来られる方お多いと思います。

――こうしてインタビューをするとき、相手の話をよく聞くようにと学びますが、インタビューもインタビューアーによって大きく聞き方が違います。カウンセラーの先生はいかがでしょうか。こんな話をされたら困るなとか、それは本筋じゃないなというときでも、ただ黙って聞いているのでしょうか。

Mi:そこは面白い観点ですね。基本的には他の人が重いと思うような話でも、ある程度聴けると思います。しかしながら、ただ受け身になって黙って聞いているかというと、そうでもありません。言葉のやり取りは少ないとしても、「この話はどういう意味だろう。こころに何が起こっているのか」と考えているので、ある面では積極性があります。どうしても聞きたいことが出てきたら、質問することもあります。

――カウンセラーの先生と言えば、優しくうなずきながら、話を聞いて下さるというイメージがあります。そういうこととは違うようですね。

Mi:もちろん話を聴きますが、優しく聞いているだけというのは違うかもしれません。私の場合は特にかもしれませんが、話の本質がどこにあるのかじっとクライエントのこころに対峙して聴くという感じです。疑問を感じたら「もう少しその辺り、詳しく聞かせていただきますか」と質問することもあります。
ただし、相手の話を批判や評価をすることは少ないですね。意見を言うときであっても「私にはこのように思った」と伝えることはあります。これも先ほどの、カウンセリングに来るかどうかは本人に決めてもらうのと同じで、カウンセラーの意見はあくまでひとつの意見だということです。クライエント自身の意見も尊重したいという立場は維持します。

――カウンセラーは話の聞き方が一般の人とは違うのですね。

Mi:はい、かなり違うと思います。

話をするだけで悩みは解決する?

――ここまでうかがえると、さらに一歩踏み込んで本題に移りたいと思います。カウンセラーに話を聞いてもらうだけで、こころの悩みは解決するのでしょうか。先ほどから話を聞いていると、そこにも事情がありそうですね。

Mi:これは当たり前のことだと思いますが、ただ話を聞いているだけでは良くなりません。ここを勘違いされている方も多いようですが。では聴くことでなぜ悩み事が解結するのかは、それぞれ学派によっていろいろな考え方があるので一概には言えませんが、私なりに説明したいと思います。
さきほど悩みを話すときの本質と言いましたが、大まかにいうとほとんどの人は「悩んでいる」といいつつ、本質としては「治して良くなろうとするこころの動き」と「悩んで苦しくてもいいから、状態をそのままに保っておこう」とする動きが拮抗しているんですね。言い方を変えると、どんな悩み事を抱えている状態であっても、その人自身のこころの中には、現状を変えようとしている自己治癒の力が働いています。変わろうとする部分と、変わらずに自分を守ろうとする部分。その部分を引き出したり支えたり広げたりしていくのが、カウンセリングだと私は思います。どのような内容の話であっても、必ず現状を変えようとする動きが含まれている。それを聴き逃さないようにするのがカウンセリングです。
ただし、しっかりと話を聞くためには理論的な理解も必要ですし、それを理論的仮説を手掛かりにしないと話を理解できないので、簡単に誰でもできるものではありません。そして、クライエントの内側にある現状を変えようとする力を、妨げずに育てて広げていくことで悩みは変化します。ある意味では、その人がすでに持っている力を引き出して支えるだけですが、それが上手くいったらこころの状態がよくなるのは当然と言えるかもしれません。

――話をもう少し伺ってもよろしいでしょうか。つまりは悩み事の中に自分を変えようとする動きがあると?

Mi:そうですね。

――たとえば職場の上司に対して「明日までこの原稿を仕上げろ」と仕事を受けたとき、「また無理な仕事を頼まれた」と嫌な思いを抱いていたとします。そこにも自分を変えようとするこころの動きがあるということでしょうか。

Mi:そういう話であると、わかりやすいと思います。たとえば「無理な仕事を頼まれた」と言葉では言うのですが、こころの動きから考えると「与えられた仕事は片づけたい」という思いと、「自分の能力では出来ないかもしれない」という劣等感、または「負担がかかっていることを上司に分かってほしい」という上司への想い。そのほかにもいろいろな背景が「また無理な仕事を頼まれた」ときの嫌な気分に含まれています。
これを変えようとする力という側面からみると、「仕事の作業効率を上げる」「仕事の能力向上」「上司との関係改善」など、色々なテーマが出てきます。変えたくないという方向を検討しても、自分のこれまでの働き方を変えることは、不安を引き起こすことになるので、「しんどい」と思いつつも現状を維持しようとする動きもある。これらについてどれかひとつだけにだけに取り組むだけでも、人生は変わると思います。
でも本音にある「もっとしっかり働けるようになりたい」という希望は、普通に話を聞いているだけでは引き出せないかもしれない。本音についてはクライエント本人も普段は気づいていないかもしれない。そういった、こころの奥底にある動きを察知して働きかけるのが、カウンセリングです。ただし繰り返しになりますが、私が「あなたは仕事に対する劣等感がありますよね」などと直接指摘することは少ない。あくまで本人が「私はもっと仕事ができるようになりたいと思っている」と気付くようになるのが大切です。

――気付いたら変わるのですか?

Mi:もちろん、気付くことはきっかけにすぎません。しかしながら、そういった気づきを繰り返すうちに、考え方や行動も自然と変わっていきます。ただし最近は認知行動療法といいますが、そういう気づきを得やすいフレームを用意して、その枠組みの中で自分の考えや感情を振り返り、行動につなげていくことで悩みの解決を目指すという方法が主流になりつつあります。ただしそのときでも、私はまずは相手の話をしっかりと聴くカウンセリング能力が必要だと考えています。話をしっかり聴かないとクライエントが本当はどのような状態を目指しているのか、方向性は見えてきませんから。的外れな目標を立てて、ワークをしたとしても、効果は出にくいかと思うので。

――カウンセリングとは何かについて、本質にせまる話が続きそうですが。次回はもう少し基本的な話にもう一度戻ってお聞かせいただいてよろしいでしょうか。

Mi:そこはお任せいたしますので自由に進めてください。

そう言っていただけると助かります。それでは引き続きお願いいたします。

(次回に続く)

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