Q67.しなければならないこと(仕事や勉強)があるのに、逃げてばかりの人がいます。能力がないわけじゃないのに。そういった人は何かこころの問題があるのですか。

こころの症状

実際にこのタイプの方が相談に来ることは少なく、来られたとしてもカウンセリングが続かないことが多いです。

質問された方がおっしゃる人については、実際に会ってみないとわかりませんが、もしかすると回避傾向がある方かもしれません。

 回避傾向というのはどのような状態なのでしょうか。今回は最近カウンセリングの現場でも目にすることが増えている、回避傾向について説明したいと思います。

回避傾向の特徴

ではまずこのような傾向があるか振り返ってみてください。

  • 仕事や勉強などの課題の解決を先延ばしにする。

  • 課題解決の能力はあるのに、取り組もうとしない。

  • 切羽詰まった状況になれば取り組むけれども、それまでは手を出さない。

  • 周囲の人が解決うながしても動かない。

  • 本人も先延ばしの癖を知っている様子。

こういった取り組みを先延ばしにする傾向は、対人関係にも現れます。

人づきあいにおける回避傾向

  • 表面的な人づきあいはするけれども、深い関わりは避ける。

  • 人間嫌いではなく、むしろ独りでいるのは苦手。さみしがりや。

  • 親密な友人や仲間、恋人を作ろうとしない。

対人関係にも回避傾向は現れます。

これらの傾向が生活するうえで問題になっており、本人も悩んでいる場合、カウンセリングの対象になることがあります。

ただし先ほど言ったように、回避傾向がある方は自分の課題に取り組むのが苦手なので、カウンセリングに来たとしても続けるのが難しいです。

カウンセラーとしては心理的な状態を理解しようと努めます。回避傾向を持っている方でも「自分のことをわかってくれる」と思ってくださると、カウンセリングを続けられることもあります。

では回避傾向をお持ちの方の心理傾向について説明します。

回避傾向のある方の心理状態

  • 他人に批判や拒絶されることを極端に恐れるため、対人関係や仕事を避けようとする。

  • 自分が受け入れてもらっているという確信がないと、人と関われない。

  • 内的には自尊心が低く、自分が劣っていると感じやすい。

  • 小さな失敗でも「大変なことをしてしまったかもしれない」と、大きな不安におそわれる。

  • 自分の劣等感につながるような、特定の観念にとらわれている。

などがあります。

つまり「他人に批判されること」「自分が失敗しそうな状況」を過度に避けようとするのです。

他人からみたら些細な失敗であっても、本人は「大変なことをしてしまった」と考えるため、失敗した状況や対人関係に近づけなくなります。
結果として失敗した出来事に対処できず、さらに「私はダメだ」と劣等感が高まるというパターンを繰り返します。本人は、問題を解決できないことに悩んでいるのです。

このような回避傾向を持っている方は、普段から「新しいことに取り組むのが怖がる」ようになります。新しい対人関係や仕事に取り組むのが苦手ですが、常に「どうにか解決したい」「これでは充分ではない」という不全感も抱いています。

さらに思考の特徴として「自分はダメな人間」であることを、証拠づけるような「特定の考え」にとらわれていることもあります(「私のここが悪い」という強いこだわり)。もちろん、その「とらわれている考え」を払拭するような行動もとれないので、悩みは解決しません。

そして内面には強い劣等感と孤独感を抱いています。

カウンセリングでの対応

カウンセリングは、悩みを抱えている人のこころの状態を知ることから始めます。

カウンセラーは、悩んでいる本人が抱く「私はダメな人間」という思い込みをまずは理解しようと試みます。
具体的に何をダメだと思っているのか、どのような経緯でそのような思い込みに至ったのかを確認します。
確認するなかで、少しずつ本人の想いが理解できてきます。そうすると本人も「わかってもらえるかもしれない」という信頼感が芽生え始めます。

そしてカウンセラーは本人が抱く「ダメな人間」という劣等感について「心情はくみ取りつつ」も、客観的現実とはずれた、本人の思い込みの可能性があるのではと検討をします。

ただし検討をすることが、本人の失敗体験を惹起する可能性があるため、慎重に話を伺います。

そして劣等感を作り上げてきた本人の傷つき体験や、その気持ちの裏側にある「本当はもっとこうなりたい」という自尊心を育てることで、状態の変化を目指します。

「失敗したかもしれない」出来事を振り返ることは、誰でも恥ずかしいですし、不快です。

しかし失敗と思えたことのなかに、その人の成功体験や、次に取り組むべき課題が含まれていることがほとんどです。自尊心を育てるのは、失敗と成功の体験を繰り返すしかありません。
回避傾向を持つ方に必要なのは、失敗したあとでも次の成長を見守ってくれる人がいる、という信頼関係に基づくこころの支えです。信頼関係の支えがあることで自尊心は育つのです。

自尊心がしっかりとできてくると、課題を回避する必要はなくなり、主体的に課題に取り組めるようになります。

「また逃げようとしている。変わらない。カウンセリングに意味があるの?」と思われるぐらい、自尊心はゆっくりと成長します。

失敗しても諦めないこころを育てるためには時間が必要です。
カウンセラーは本人以上に、こころの成長を待ち続けることが仕事です。
失敗から何かを学び取ったとき、その方は大きな成長が始まります。

(今回説明した状態について詳しく知りたい方は、精神科で扱われる診断名のひとつ「回避性パーソナリティ障害」をご参考ください。適切な診断は医療機関にご相談ください)

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