Q66.メンタルヘルスについてのセミナーを受けたのですが、受けるだけでこころの状態は良くなるのですか? こころが変わるのに時間がかかると聞いたので。

よくある質問・カウンセリングの疑問

メンタルヘルスに関するセミナーや講習は広く行われています。上記の質問をされた方も、セミナーを受けた経験から、このような疑問を抱かれたのかもしれません。

セミナーを受けることでメンタルヘルスの改善はできるのかについて、カウンセラーの立場から説明したいと思います。

先に結論を正直に申しますとセミナーを受けるだけで何もしないと、こころの状態は改善しないと思います。
しかしセミナーに意味がないのかというと、意味はあると思います。

私はこれまでにメンタルヘルスの課題を抱えている方たちへ心理教育(こころの病いとの付き合い方について、当事者さんが参加する小規模の勉強会)を実施してきました。
その経験を振り返りながら、メンタルヘルスについてのセミナーを受ける意味を説明します。

メンタルヘルスに関するセミナーの効果とは

大きく分けて次の4つがあります。

  • 問題点に気づくようになる
  • 自分の体験を言葉で説明できるようになる。
  • 問題点を整理できる。
  • 対処方法を考えるようになる。

これらを順に説明します。

問題点に気づけるようになる

メンタルヘルスは「形のないこと」を扱います。気持ちやこころ、感情など、精神状態はどれも形がありません。

たとえば日常的に使う心理用語である「ストレス」を考えます。
最近は職場で行われるようになったストレスチェックも「ストレスレベルが高い」という数値が出て、ストレスがかかっている状態であることが表されます。
しかし「自分のストレスを目の前に見せる」ことは不可能です。
こころの状態は「目に見えないから」です。

メンタルヘルスの課題について「自分には関係ない」と否定する人もおられます。
その背景には「こころの状態は知らない人に分かりにくい」という事情があります。

メンタルヘルスの内容は体験を通じて理解できるようになります。
「ストレスを感じたことがない」人であっても、外に出て凍えるほど寒いとき、つらさを感じます。
その感じている状態が「ストレスがかかっている状態」です。
ほかにもスケジュールが立て込んでいるときの「あせり」「気持ちの高ぶり」もストレスの反応です。

「寒くてつらい」「立て込んでいる感じ」「あせる」「高ぶる」というのは、気持ちの状態です。
「寒そう」とは思っても「どれほど寒いか」は他人は体験できません。
しかし本人は「それがストレスなんだ」と体験的に理解できます。

このように、こころの状態は本人が体験している内的な変化です。
知識を得ることで「あの体験がこころの変化」と理解できます。

セミナーを受けると「知識がなければ気づかなかった、こころの変化」があることを知ります。
そして関心を持っていれば「こころの不調に気づける」ようになります。

自分の体験を言葉で説明できるようになる

では、こころの不調に気づくことが、なぜ大切なのでしょうか。
たとえば、こころの不調が初めて表れた方のケースを考えます。

初めてこころの不調が出てきた方がよくおっしゃるのは「なんとなくしんどい」です。具体的に何がしんどいのかを聞いても、「いや、上手く言えない。とにかくしんどい」とおっしゃいます。

しかしカウンセラーは具体的に内容を伺います。
「寝る前の状態はどうか」「寝起きの感覚はどうか」「どのようなことが頭に浮かびやすいか」など、具体的に何がしんどいのかを尋ねます。
そのような質問によって「朝になると布団から出る気持ちになれない」「ずっとネガティブなことを考えている」など、言葉に出来るようになります。

ここで大切なのは具体的な質問をするために「うつ状態は気分や睡眠に影響を与えやすい」という知識が必要ということです。知識があることで具体的な質問ができるのです。

そして、このような知識をセミナーで得ることができるのです。
知識があると「なんとなくしんどい」ではなくて「眠けがずっと続いててしんどい」「頭が働かない」など状態を説明できます。
そうすることで早めに「メンタルの不調が出ているかもしれない」と気づきます。

またクリニックに通院するときも「なんとなくしんどい」よりも、「夜の寝つきが悪くて。12時に布団に入っても眠れません。朝5時ごろにやっと眠れて。昼過ぎに起きます。体のだるさは一日続きます」というと、不眠の状態が医師に伝わります。

問題点を整理することができる

こころの不調が起きているとき、「しんどさを引き起こす要因」を探すエネルギーがありません。

しかし事前にセミナーなどで「どういったことがしんどさにつながりやすいのか」のパターンを知ることができます。そのため不調になったときも、不調の要因を特定しやすいのです。

不調の要因も様々です。

  • 職場で起きやすいこころの不調の要因
  • 家庭内で起きやすい悩み事
  • 個人の性格やこころの特徴などから起きてくる状態

などがあります。

実際にはいくつかの要因が重なって、状態像が出てきます。たとえば最近よく耳にする「発達障害」について考えます。

発達障害に関するメンタルヘルスの課題は「個人のこころの特徴から出てくる要因」と思われますが、実際にはそれだけではありません。

職場環境や仕事内容によって、大きく影響を受けて課題が出てくる場合が多いです。
「他人と上手くつきあいができない」とき、要因がいくつかあります。

・本人の能力以上の仕事を与えられて対処できなくなっている
→「本人の出来ること、できないことを確認する」

・コミュニケーション方法の共通理解ができていない
→「本人が理解しやすいような方法で伝える」

知識を得ることで対応方法がみえてきます。
課題が生じている要因を考えることで解決につながります。

対処方法を考えるようになる

セミナーで教わるのは「問題対処のためのヒント」です。対処法はあくまで「先行事例」です。
得た知識を「具体的に自分たちの職場でどのように応用し、実践するか」を考えた先に、課題の解決があります。

始めにお伝えしたように、セミナーを受けるだけではメンタルヘルスの課題は解決はしません。

しかし、セミナーで得た知識をきっかけにして「自分たちなら学んだ内容をどのように活かせるか」と考えて実行したとき、課題の解決へと近づきます。

つまりセミナーや研修で教わる内容は、きっかけにすぎません。
しかしきっかけによって解決への道が開かれることがあります。

「何もしなければ、問題は解決しないままだった。しかしセミナーを通して自分立ちで解決方法を考えるようになった。そして結果として解決に至ることができた」

このきっかけを生むことがセミナーの効果といえるでしょう。

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