正直に言いますと、人生経験があることによってカウンセリングをするときに少しは役立つことがありますが、人生経験だけでは対応できないのが実際だと思います。カウンセリングは、カウンセラーの人生経験に基づいて行うのではないからです。
カウンセリングとは、カウンセリング技術に基づいて相談者の話を聴いて、こころの成長を目指すという技法です。そのためカウンセリングに必要なのは人生経験ではなくて、カウンセラーとしての経験なのです。
こころの悩みを扱うとき、自分の人生経験によって相手に何か良い影響を与えられると考える人も多いです。そのような「人生経験に基づいたアドバイス」でこころの悩みが解決できるのであれば良いのですが、実際にはそれほど簡単に解決できないことがほとんどです。
カウンセリングでは、カウンセラーの予想もつかない大変な経験をされている方の話を聴くことがあります。そのようなとき、自分の人生経験に基づく知見だけではどうにも対処が出来なくなります。
「あなたの話は私にはわからない、理解できない」と話をそれ以上聴くことを拒否する人もいるのですが、それではカウンセリングにはなりません。
カウンセラーは「自分の人生経験では想像もつかない、理解できないこと」を大事にします。言い換えると「自分にはわからないこと」に、カウンセラー自身のこころを開いていくのです。「わかること」よりも「わからないこと」が大切なのです。
人生経験に基づいて話を聴こうとする人は「自分の人生に照らし合わせて理解できること」を守ろうとします。しかし、これはカウンセラーとは「逆の態度」といえます。とくに「なんでも分かった」という応答をされると、相談者からすれば逆に「わかってもらえていない」という体験になります。
私のようなカウンセリングの仕事をしている立場からみると、いわゆる悩み相談をしている人たちの会話を見ていると、相談を受けている人が「あまりにも早く相手の話をわかってしまっている」人が多いという印象があります。さらに「本当に相談者の話をどの程度わかっているのだろうか」という疑問もわいてしまいます。
カウンセラーは「わからない」ことにエネルギーを注ぎます。相談者の話を聴いていても、「わかったつもりにならない」「どこがわかっていないのか」を大切にします。相談する立場からみても「わからないのだけれども、どうにかわかろうとしてくれる」相手にはこころが開きやすいということがあると思います。
「同じ経験をしたことがないと相手のことが理解できない」という考えを持っている方もいますが、私はそうじゃないと思います。あえていえば「正確には理解できていない可能性はあるけれども、こころは伝わってくる」ときさえあります。理解できないことを大切にすると同時に、伝わってくるこころも大切にするのが、カウンセラーの立場だと思います。
「聴き上手の人は、自分の経験したことがないことこそ、しっかりと聴こうとする」傾向があります。これは人生経験だけを頼りにしてカウンセリングはできないことを表しているかもしれません。
Mitoce 新大阪カウンセリング・心理検査
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