【書評】こころの彩りを取り戻す。プロイスラ―『大どろぼうホッツェンプロッツ』

書評

プロイスラ―/作 中村浩三/訳『大どろぼうホッツェンプロッツ』1962 (偕成社 1966)

プロイスラ―はドイツの小学校で教鞭を取りながら執筆活動をしていた児童文学作家です。代表作は魔法修行の物語り『クラバート』がありますが、日本ではこの『大どろぼうホッツェンプロッツ』の作者として広く親しまれています。

ちなみに、この「Hotzenplotzホッツェンプロッツ」という名前は、作者の造語のようです(町の名前という説もあります)。挿絵にあるような、無骨で不格好、ドタバタした雰囲気のおじさんにぴったりの語感を持っています。

さて、この物語り、丁寧に読みとくと、興味深い構成であることに気づきます。というのも、カスパールとゼッペルという二人の子どもが、おばあさんに「音楽の鳴るコーヒー豆ひき」をプレゼントしするところから物語りははじまります。

荒唐無稽な物語

二人が手作りしたこの道具は、おばあさんのお気に入りになりますが、それをを盗んだのが大どろぼうのホッツェンプロッツです。彼はピストルと7本のナイフを腰に差し、威嚇しながら奪っていきます。それを取り戻そうと、ガスパールとゼッペルが、大どろぼうを捕まえにでかけます。

しかし、二人は泥棒に捕まってしまいます。ガスパールは、「かぎたばこ」と交換に、ペトロジリウス・ツワッケルマンという魔法使いに売り飛ばされてしまいます。魔法使いの城で、彼は「ジャガイモの皮をむく」という作業を延々とさせられます。しかも、敷地から一歩も出られなくなる魔法までかけられてしまいます。

カスパールは、魔法使いの留守をついて城を探索し、地下に「入ってはいけない」という注意書きのある部屋を見つけます。その中に入ると、スズカエルに姿を変えられた妖精アマリリスがいました。彼女は「ようせい草」を持ってきてくれたら、自分の魔法が解けると告げ、カスパールに家を抜け出す方法を教えます。

カスパールがようせい草を手に入れて戻るあいだ、ツワッケルマンとホッツェンプロッツは仲間割れを起こし、大どろぼうは鳥に変えられて籠に閉じ込められます。

カスパールが戻ってきて、アマリリスがものと姿に戻ったとき、ツワッケルマンは池の中に落ちて滅びます。こうして二人はコーヒー豆ひきを取り戻します。

ホッツェンプロッツは鳥の姿のまま、警察署に連れていかれ、そこで魔法を解かれてつかまります。そこで物語りは終わります。

 

一体どういう話なのでしょうか

この物語りの流れをみていると、不思議ながいろいろと出てきます。泥棒をつかまえにいく話が、いつのまにか魔法使い退治にすり替わっているような話です。しかし、これこそがドイツの伝統的な「メルヒェン(昔話)」の構造なのです。※たとえばグリム童話があつめたのもメルヒェン。それは、古くから語り継がれてきた、「こころの智恵」のようなものです。

一見何が起こっているかよくわからない出来事の背後に、深い意味が隠されています。たとえば「7本のナイフ」。これは「俺は大どろぼうとして、ものすごく強いんだ」と強さを誇示する表現だったりします。また、地下にとらわれた妖精は、魔法使いが地下に独占していた「魔法のエネルギー源」ともいえます。魔法の力の源がアマリリスなのです。カスパールが彼女を解放したことで、制御できない力が溢れだし、結果として魔法使いは滅んでしまったのです。

さて、こころの側面からこの物語りを読んでいると、興味深い問いが浮かんできます。「これは誰に起きた出来事なのだろうか?」。

主人公のガスパールが注目しがちですが、実は「おばあさんのこころの中」で起きたプロセスとも捉えられます。

年を重ね、日々の彩りが薄らいでいたおばあさん。そこに子どもたちが、喜び(音楽を奏でるコーヒー豆ひき)をもたらしてくれた。その道具をめぐって、いろいろな物語りがおばあさんのこころの中で生まれた。こころの深層で葛藤や冒険を経た後、道具はさらに彩りを増してきた(さらに大切なものになった)。つまり、おばあさんのこころの奥底には、まだアマリリスという輝きが生きている。妖精が生き返ることで、おばあさんの日常に彩りが戻ったという物語りです。

このように、表面的には良く分からないような話であっても、意味を掘り下げると、深い真実が見えてくる。

私がカウンセリングでお聴きするクライエントのお話や夢も、同じような側面があります。自分のこころの奥にも、アマリリスが待っているかもしれない。そのような視点で、こころを探求してみてはどうでしょうか。もしご希望される方がおられたら、私もそのお手伝いをさせていただきます。

プロフィール
この記事を書いた人
三輪 幸二朗

Mitoce 新大阪カウンセリング代表
臨床心理士

Mitoce 新大阪カウンセリング
電話番号:06-6829-6856
メールアドレス:office@mitoce.net

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