確かに精神科医療をめぐってマイナスのイメージはあると思います。私も精神科病院で働いていた経験をふまえても、正直なところマイナスのイメージで伝えられるような状況が全くないとはいえないところもあります。
たとえば世界的にみても日本では精神科病院での隔離拘束や長期入院が多いと指摘されています。これは精神科病院が閉鎖的であるのを示すひとつの状況かもしれません。実際に精神科病院を利用したことのない人からすれば、「精神科病院は、なかで何が行われているかわからない怖いところ」というイメージがもたれる要因のひとつかもしれません。そのうえ、病院なので当然なのですが、プライバシーや社会的な偏見を持つ人もいるので、外の人が入院中の人とかかわることは、かなり少ないと思います。なので実際の様子をみたことがないから、余計に「入院しているのは怖い人たち」というイメージが膨らむ可能性もあります。
実際に精神科病院に働いていた私としては、確かに一般の人、いわゆる精神科とのかかわりのない健常な人と感覚がずれているところはあると思います。突然声をあげたりする人や、一般には意味不明とみられる行動をする人がいるのを否定はしません。しかしそれは、精神科とかかわりのある患者さんのほんの表面的な部分だと思います。(「一般には意味不明」とみられる行動であっても、心理学的にはとても重要な意味を持っている言動であることがほとんどです。なぜそのような言動になるのかについても、一応、心理学的には理解できるます。そのため、私は精神障害を抱える人とかかわるなかで「わけのわからない行動をするので怖い」と思ったことはありません)
精神病的な症状によって異常とみられる言葉や動作をみせることはありますが、個人個人のこころや人柄を見ていると、素直なひとであったり、すごく心優しい人だったりします。私は患者さんに対して、それほど否定的なイメージは持っていません。
一緒にいると、こちらのこころが癒されるような体験をするときさえあります。否定的な側面が多く伝えられる一方で、当事者の普通の生活が伝えられることは少ないという印象はあります。
当事者たちも、自分たちが社会から否定的にみられることがあるのをご存じなので、本人たちがそのイメージを払拭しようとすることは少ないですのですが。精神科へのイメージは変わりにくい、という現状はあります。
一般の人たちの反応として、人間の前頭葉機能、つまり理性や判断といった機能が低下している人と出会うと「あの人は人間らしさを失った人」のように扱う傾向があると思います。そしてそのような状態の人とは距離を取って、警戒をするでしょう。
私が出会った人に限って言えば、どのような重い精神障害の人でも、その人らしさ、人間らしさを失った人と出会ったことはありません。どのような人でも、どこか「人間らしさ」にあふれています。それが精神科の現実だと思います。
当事者の家族であっても、患者さんの世話などで大変な経験をされている場合も少なくないので、精神病に対する否定的なイメージを持っている場合もあります。家族に対してケアやサポートが必要なのですが、まだまだ充分にサポートが行きわたっているとはいえないかと思います。家族会の活動とかもあるのですが、もっと広まればと願います。
もちろん、肯定的な面をみるだけではありません。感情や行動のコントロールができなくて、他人を傷つけてしまう患者さんもいます。しかし、それこそが症状なので、注意をしつつ対応する必要があります。日本の精神科病院の抱えている問題は、そういったコントロールができなくなっている患者さんのことではなく、ある程度、感情や行動のコントロールができるようになっているにも関わらず、様々な要因によって退院ができなくない患者さんが多いという状況です。
「なぜこの人が退院できないの?症状は治まっているのに」という状況はしばしば目にします。そのような状況を見ていると、社会から向けられる精神科病院への否定的なまなざしが「退院できない要因の一つ」になっている可能性があるので、私としては肯定的な側面も伝えたくなる、という思いがします。
このあたりは歴史・社会・文化的にいろいろなことが重なり合って起こっている出来事なので、慎重に考えていきたいと思っています。
Mitoce 新大阪カウンセリング・心理検査
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