【書評】 バラ―ジュ 『ほんとうの空色』 徳永康元 訳 岩波少年文庫 2001年訳
何かの魔法がかかったような、不思議なものを手に入れたら、どうしますか。
誰かに見せびらかすか、それとも自分だけの秘密の宝物として隠しておくか。
どちらにせよ、そのような自分にとって大切なものを手に入れたとき、人生が少し変わる。
そのような話を今回は取り上げます。映画評論家としても活躍したバラ―ジュの作品、『ほんとうの空色』です。
主人公はフェルコーという男の子。父親を早くに亡くし、母親は洗濯屋を営んでいて、まずしい暮らしを母と子二人で送っています。フェルコーは母親の仕事を手伝うために、宿題をする時間が無い。なのでいつも、成績は悪かったのです。しかし、彼は絵を描くことだけは上手でした。
ある日、クラスメイトのチェル・カリが先生に叱られて落ち込んでいました。カリはお金持ちで、美しい絵の具箱を持っていました。フェルコーは彼を慰めようと声をかけたのですが、「フェルコーが話しかけてくる」と先生に告げ口をします。ところが告げ口をしたあとでカリは考え直したのか、小さな声で「絵を描くように」と言い、「君の絵をもらってやってもいいぜ」と絵の具を貸してくれました。ただし、絵の具を無くさないようにと念を押します。フェルコーは喜んで引き受けました。
フェルコーは家で絵を描いていました。しかし、フェルコーが席を外しているうちに、青の絵の具がなくなってしまったのです。どうやら、ネズミが持って行ってしまったようです。フェルコーは落ち込みます。
なんとか、遅れて学校に辿り着いたとき、用務員のおじさんがフェルコーに声をかけます。昼の鐘がなるときに1分間だけ咲く花がある。その花から絵の具を作ることが出来る。その絵の具は「ほんとうの空色」という。
フェルコーは用務員のオジサンが言うとおりに、青い花を見つけ、それをもとに「ほんとうの空色」の絵の具を作ります。その絵の具を使うと、「実際の空」がそこに描かれるのです。その空は絵なのに、雲がかかり、太陽が輝き、雨が降り、そして雷さえ鳴ります。塗られたところが「本物の空」になるのです。フェルコーはその絵の具を使って、絵を描くことをきっかけに、秘密を共有できる友だちが出来たり、カリとの関係が改善したりなど、いろいろなことを体験します。
そのような話です。
小さいけれども意味のある宝物
今回の話は、壮大なテーマがあるような話でもなく、何か深い含蓄を含んだような強いメッセージが含まれている話でもありません。「ほんとうの空色」という魔法のような絵の具をみつけたあと、いろいろな事件はありつつも、絵の具のおかげで解決していくという話です。絵の具は事件を引き起こすきっかけにもなるし、危機を乗り越えるための道具にもなるのです。
これについて、子どものこころ、という側面から考えると、このように理解できるかもしれません。
自分にとって、誰にも見せたくないような秘密の宝物。その宝物は、子どもにとっては魔法のような力を持っている。ときにはその子どもにとって、良いことをもたらすし、一方でトラブルをもたらすこともある。
たとえば、子どもが公園で見つけた綺麗な色の石。見つけた子どもにとっては、宝物になるかもしれません。持っているだけで何か特別な力をもっているような気持ちになるし、誇らしくもある。しかし、その拾った石を持っていることで、「汚いから捨ててしまいなさい」と言われたり、トラブルを引き起こす原因にもなったりする。
子どもはこういった「魔法が込められた宝物」を持つことで、世界が広がっていくのです。
大人にも、この傾向は当てはまります。
フェルコーのように絵を描くのが好きな人が、素晴らしい色の絵の具を手に入れた。それだけで、気持ちも変わるし、場合によれば絵も変わるでしょう。またはもっと身近な例で、趣味でカメラを始めたら、世界の見え方が変わったという人もいますし、一冊の本を読むことで、人生が変わったという体験をする人もいます。ちょっとしたアクセサリーを持つことで、気分も変わります。自分の人生を変えたい。と思ったとき、自分にとって本当に価値があると感じるものを手に入れたら、それに関連して色々なことが起こるかもしれないのです。
ただし、フェルコーの状況を知っておくことも大切です。フェルコーはまずしい家に育ち、自分の絵の具も買えず、勉強をする時間もなかった。そういった手もとに何もない生活だからこそ、ほんとうの空色の絵の具を、本当に大事にできたのでしょう。もし、いつでも沢山のものを手に入れられる生活だったら、この絵の具も「変わった道具」のひとつにすぎず、フェルコーほどの価値を感じていなかったかもしれないのです。
つまり、自分のまわりには何もないと諦めるのではなく、「普段何もなさそうな生活を送っているからこそ、何かを大切に感じることが出来る」ともいえるのです。諦めたくなるような大変なときにこそ、何か宝物を手に入れられるかもしれない。フェルコーと絵の具との出会いを見ながら、考えさせられました。


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