アストリッド・リンドグレーン/作 イロン・ヴィークランド/絵 1971『ロッタちゃんとじてんしゃ』 山室静/訳 偕成社 1976
自分は何でもできる気がする。
そんな思いに駆られたことはないでしょうか。
だれでも小さい頃は、何でもできる気持ちになったことがあるかと思います(もちろん全員ではないですが)。
そういった子どもの頃の「何でもできる気がする」「みんなに負けたくない」といった気持ちを生き生きと描いた絵本が『ロッタちゃんとじてんしゃ』です。物語と同じく、絵も素晴らしい本です。
ロッタちゃんは5歳の女の子。上にお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる末っ子です。
ロッタちゃんは、上のきょうだいが自転車に乗っているのを羨ましく思っています。自分はまだ自転車を買ってもらっていないし、乗っているのは小さな三輪車。まるで小さな子ども扱いされているように感じている様子です。ロッタちゃんは「私は自転車に乗れるもん」と、まだ乗ったこともない自転車に乗れるかのように強気でいます。ロッタちゃんはこう言います。「あたいだって、ほんとにのれるんだから。ひみつだけど!」
さて、そんなロッタちゃんに誕生日がやってきます。自転車をもらえるのを楽しみにしていたのですが、家族の誰からももらえず、不機嫌になってしまいます。そして近所に住むベルイおばさんの家に行きます。というのも、おばさんの家には自転車があるのを知っていたからです。おばさんが昼寝をしている隙に、物置から自転車を盗み出します。自転車に乗って坂道を下るのですが、ブレーキのかけ方が分かりません。結局、家の垣根にぶつかって転倒し、けがをしてしまいます。
落ち込んで家の門でお父さんの帰りを待っていると、お父さんが自転車を持って帰ってきます。ロッタちゃんは大喜び。そして、みんなの前で「自転車に乗れる」ということを披露する、という話です。
なんでもできる気分
ロッタちゃんは、自転車に乗れないにもかかわらず、乗ろうとします。結局、その強気な態度が幸いしたのか、最後には乗れるようになります。
大人になって思います。いろいろなことができるようになりたいと思っていたけれども、結局は、できないままに後回しになっていることが多いです。途中で面倒になったり、あきらめたり、そういったことが重なって、達成しないままになってしまいます。
しかし、ロッタちゃんを見ていると思わされます。「とにかくそうなりたい!」と思って行動しているうちに、できるようになるのだと。ロッタちゃんも、自分がまだ自転車に乗ったことがないのはもちろん分かっています。そこで「乗ったことがないからできない」と考えるのではなく、「ほんとはのれるんだから、ひみつだけど」と自分に言い聞かせます。
ある意味での暗示なのですが、それは「できている自分」をしっかりと思い浮かべているとも言えます。つまり、「本当は○○できるのだから、今はひみつだけど」――そう思って行動することで、自分がしたいことが実現できるのかもしれません。そんな前向きな気持ちにさせられます。
前向きになれる元気
ロッタちゃんは活動的です。感情も豊かで、いろんなことを楽しみ、喜び、そして悲しんだり怒ったりします。大人から見ると、そんなに気持ちが動くのは大変そうですが、本人はそれほどでもなく、充実した時間を過ごしていそうです。
子どもの頃はどうだったでしょうか。自分の子ども時代を振り返ってみます。もっと夢にあふれていて、「こういうことができたらいい」など、いろいろなことを思っていたかもしれません。しかし大人になるにつれて、「これはできないだろう」「結果はこうなるだろう」と分かったつもりになってしまいます。始める前から結果を予想して、自分でブレーキをかけてしまうのです。
しかしロッタちゃんは逆です。「ほんとうはできるんだ。ひみつだけど」。実際にブレーキのかけ方を知らないまま自転車に乗って事故に遭うのですが、それでもへこたれず、また自転車に乗ります。すると、ひみつではなく「本当に」自転車に乗れるようになります。その姿を見ていると、「私は自分で勝手にブレーキをかけているかもしれないな」と気づかされます。
皆さんはどうでしょうか。自分の中でいつのまにかブレーキをかけていることはないでしょうか。そんなときには、自分の中に昔潜んでいたかもしれないロッタちゃんを思い出してください。「ほんとうはできるんだ。今はひみつだけど」


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