カウンセリングオフィスを開業していると「良い精神科の先生を紹介して頂けますか」と、しばしば言われます。また「良い精神科はどうやってみつけられますか」という質問も頂きます。
私は精神科領域で精神科医の先生と働いてきました。心理職によっては精神科医に対して否定的な想いを抱いている人もいるのですが、私はどちらかというと良い関係を取りながら働くタイプであり、それほど否定的なイメージを持っていません。
とくに重い精神病を抱えている方の心理療法を行うとき、医師との協同関係は不可欠ですので、対立するよりも協同することを基本的な立場としてとっています。
そのような立場ですので、あまり評価的に「良い・悪い」ということは言いたくないのですが、精神科医療にかかるクライエントの切なる願いとして「良いお医者さんにかかりたい」と意見を聞くので、今回は参考までに幾つかポイントを挙げたいと思います。
※精神科を受診するとき事前の情報(ネットの評判など)だけでは、良し悪しの判断は難しいので、参考として初めて診察を受けたときや待合室で待っているときに気付くような手掛かりをいくつか書きます。
良い主治医であるかカウンセラーがチェックするところ
1)場所の雰囲気から伝わる主治医の人柄
待合室の雰囲気がこざっぱりしていて、片付いている。風通しが良い。スタッフの雰囲気が明るく、全体として静かで温かみのある場所が理想です。
病院やクリニックに入ったときに受ける第一印象は大切です。場所の雰囲気にはその場所を管理している人の人柄が現れやすいからです。精神科医療の場合、視覚的、聴覚的な刺激を避けるために、音や装飾品の少ない待合室を作ることもありますが、その中にもどこか温かみを感じるのが良い場所だと思います。
精神科は多くの場合、長い期間、通院をすることになるので「安心して通える場所」であることが大切です。そのような場所を作ることができる医師は、良い医師だと思います。
2)診察時間が相手によって変わる
医師の適切な診察時間はどれぐらいなのか、それは私のような心理職からすると、かなり判断が難しいです。ただし診察が上手い先生をみると、患者さんの話の要点をつかみ、ある程度でまとめて適切な回答をする、という流れが簡潔に出来ます。
精神科の診察の場合、短い時間では話を区切ることができない状況も出てきます。そのため1時間に何名程度の予約枠を設けて、患者さんに合わせて長短を調整するという対応をされている医師が多いです。
待合室で見ていると患者さんによって時間がかかったり、短かったりするのがわかりますが、それだけで悪い医師とは言えません。患者さんに合わせて診察を調整している可能性もあるので、良い医師であることもあります。
逆にどのような状態の患者さんであっても、かならず5分で診察室から出てくるのであれば、カウンセラーとしては「どのような診察をしているのだろう」と不思議に思います。
3)診察室に入るときの表情をみる
待合室にいると、診察室に入っていく患者さんの様子をみることができます。患者さんにとって診察は緊張する場面なので、診察室に入るときの表情を観ることで、患者さんと主治医との関係をみることができます。
部屋に入る直前は少し硬い表情をしていた患者さんが、扉を開けて主治医の顔をみたあと、ほっとした表情を浮かべる。主治医と安心できる関係性が結べているのが、その表情から伝わってきます。このような安心できる関係性を患者さんと結べるのは良い医師だと思います。
ただしほかの患者さんから顔を見られるのを嫌がる人もいるので、あまりじっと見ないように気を付けてください。
4)薬をあまり飲みたくない人に対応できる
患者さんが主治医に言い難い質問のひとつに、減薬の訴えがあります。副作用が怖い、薬を飲んでいると自分がダメな人間な感じがするなど、さまざまな理由で服薬への抵抗感を抱いている人がいます。自分のさじ加減で薬を辞める人も少なくありません。
しかしカウンセラーの立場から見ても「ちょっと薬を止めるのは早い? 主治医と相談しては?」と思うことがしばしばあります。そのようなとき、主治医に相談するように提案しますが、結局は相談せずに自分で薬を止めて、治療が長引く患者さんがいます。
良い主治医は、患者さんの「薬を減らしたい」という相談に耳を傾けて下さいます。とくに「どのようにすれば減るか」「どういう状態であれば減るか」などの見通しを説明して下さるのは良い先生だと思います。
5)ソーシャルワーカー、カウンセラーなど紹介が上手
カウンセラーの立場としては、カウンセリングや心理検査を活用して下さる医師は良いと思うのは当然ですが。心理職以外にも精神科医療ではさまざまな職種が働いています。訪問看護師、精神保健福祉士、作業療法士などです。そういった医師以外の他職種と協力することで、患者さんの生活全体をサポートすることができます。
良い医師は他職種と協同で働きますし、また依頼をしたあとも他職種とコミュニケーションを取ります。そういう連携上手な医師は治療判断も優れていることが多いです。クリニックを探すときには、医療以外の連携先を幾つか持っているところを選ぶのもひとつです。
良い医師のデメリット
精神科のクリニックは都市部ではかなり増えてきています。しかし、その一方でデメリットを挙げると「良い医師には患者さんが集中して、予約が取れなくなる」です。
患者さんの立場からすると、常に良い医師を探しているで、一旦、良い医師とつながると、そこから離れなくなります。そのため患者さんの数が増えていき、新規患者の予約枠が減っていきます。
とくに新規患者を受け入れるとき、通院中の患者さんと比べて診察時間が長くなるため診察枠の調整が必要になります。すでに通院患者で枠がいっぱいだと新規枠を作ることができないので、予約が数か月待ちになったりします。
精神的に不調になったとき、新しいクリニックを探したけれども、すぐに見てもらえる場所が見つからない。こういった事態がしばしば起きます。
対策としては、これまでに精神的な不調を起こしたことがあり、今後も受ける可能性がある人は、かかりつけ医を作っておくことです。精神的にしんどいときに改めて医師を探すのは大変なので、早めにかかりつけ医を見つけておくことが良いと思います。
ちなみに、一般的に医師を探すときに使う、ネット上の口コミとホームぺージのキレイさは、私としてはほとんど参考にならないと考えています。というのも、ホームページはプロが作るので、だれがみてもある程度キレイなホームページになるからです。また医師と患者さんの相性という課題が必ずあるので、私からみて安心して紹介できる医師であっても、口コミではかなり低い評価がついている場合があります。そのため、私としてはあまりネット上の情報は、あまり参考にしません。
それ以上に、実際に病院やクリニックに行って、自分の感覚を通して「ここに長く通いたい」と思えるかどうかが大切だと思います。
私のカウンセリングオフィスから紹介するときは、基本的には私が直接お会いして、クリニックにも伺ったことのある場所を提案します。とくにクライエントの状態や性格等をみて、相性のよさそうな医師を選ぶようにします。信頼できるカウンセラーに紹介してもらうというのも、方法のひとつかもしれません。
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