Q.85 カウンセラーにいわれたアドバイスに従ったけれども、上手くいきませんでした。どうすればよいでしょうか。

よくある質問・カウンセリングの疑問

 

プロのカウンセラーが良くある質問についてお答えします。

 

カウンセラーのアドバイスが利かない?

カウンセリングではカウンセラーがクライエントにアドバイスをすることがあります。
「このように考えてみてはどうだろうか」「こんなことをしてみてはどうだろうか」
それを聞いてクライエントも、カウンセラーが言うのなら試してみよう、という方が多いと思います。

しかし、実際にアドバイス通りにしても上手くいかないことがあります。
「カウンセラーが間違っているのかな」「私の方が何か悪かったのかな」という気持ちも出てきます。
「やっぱり私にはカウンセリングは合っていないんだ」とカウンセリングを辞める方もおられます。

これは現場では頻繁に起きているかもしれません。カウンセリングでは「アドバイスで上手くいくこと、上手くいかないこと」が混在しています。

では、どうしてこのような事態が起こるのでしょうか。

それを考えるためには、私はカウンセラーとクライエントとのあいだに認識のズレをまず確認することが必要だと思います。
そこでまず始めにどのようなズレが起きているのかを説明していきます。

カウンセラーが考える「アドバイス」とは?

カウンセリングでカウンセラーがアドバイスをするとき、どのように考えているのでしょうか。
クライエントの立場からすると、「え?そうなの?」と驚かれるかもしれませんが、実際には私は次のように考えています。

「アドバイスはあくまで参考意見であり、試してみないと結果がどうなるかはわからない」

つまり「〇〇してください」というアドバイスをした場合、「〇〇をするかどうかを本人が判断して、もし実行したら結果がどうなったかを教えてください」というニュアンスです。

そのため「アドバイス通りにしても上手くいくことも、上手くいかないこともある」のが前提です。ただしこのカウンセラーの認識が、ズレにつながるのでしょう。

クライエントとしてはカウンセラーからアドバイスを受けたとき、「対応の正解を教えてもらった」と思うでしょう。解決方法をカウンセラーにもらいたいと思っている方も多いです。それなのに「上手くいくことも、いかないこともある」といわれてしまうと、「カウンセラーは頼りない、無責任」などと、いろいろな思いが出てくることもあります。

カウンセラーは「参考意見」だと考えている。でもクライエントは「解決方法」だと思っている。ここにズレが起きやすいのです。

ではカウンセラーは「参考意見」だとわかりつつも、アドバイスをするのは、なぜでしょうか。
そこには、カウンセラーとしてのいろいろな思いが詰まっているからです。そこでカウンセラーの思いについて説明します。

参考意見としてのアドバイスをするのはなぜ?

「ひと言のアドバイスで人生が大きく変わる」

これは理想的な話だと思います。専門家のアドバイスを受けて、人生が大きく変わった。そういう話を見聞きしたことがあるかもしれません。しかし、このようなことが起こるには「よほど力のある偉人のカウンセラー」、もしくは「自分の力で人生を大きく変えられる超人のクライエント」のどちかだと思います。

カウンセラーは偉人でもないですし、超人のクライエントもほとんどいません。

つまり、カウンセラーはひと言で相手の人生を大きく変えられるほどの力は持っていません。

ひと言のアドバイスで「そうだったんだ!」と納得して自分の人生を大きく変えられる人は、そもそもカウンセリングには来ないでしょう。
(もし「私は〇〇さんのひと言で大きく変わったんだ」という人に「カウンセリングはどうですか?」と勧めてもたぶん「私にはそんなのいりません」というのではないでしょうか)

実際にカウンセラーは、アドバイスのひと言で人生が大きく変わるようなクライエントは、まずいないことを知っています。

もしカウンセラーのひと言で「人生が変わった!」というのなら、たぶん通常のカウンセリングでは起きない「なにか普通ではないことが起こっている」と考えてしまうぐらいの珍しさです。

カウンセラーはアドバイスではなかなか人生は変わらないことを知っています。たとえば熟練のカウンセラーほど、アドバイスは人生を変えるための決定打にならないことを知っています。

それなのにカウンセラーはなぜアドバイスをすることがあるのでしょうか。

アドバイスについて、カウンセラーの立場から考えると

カウンセラーが「〇〇はどうでしょうか」とアドバイスをするとき、「どうでしょうか」という考え方のひとつを提案しています。あくまで参考意見のひとつです。しかしクライエントにすれば「〇〇を勧められた」つまり具体的なアドバイスとして考えます。

カウンセラーが提案するときには「もしアドバイスによってクライエントがその考え方や行動をすれば、事態が変化する可能性がある」「しかし変化しなかったら、次の方法を考えよう」「変わらなかったときには何らかの事情があるはずだから、それも把握して次の対応を考えたい」ということを考えていたりします。

こういった説明は実際のカウンセリングではすることが少ないので、結局「アドバイスをする」という形に終始するのです。

ただしこれは人のこころが変化するときのプロセスと似ています。

他人のアドバイスだけで変わることは少ない。アドバイスによって大きく変化したようにみえても、それはあくまで表面的。しばらくすれば元通りになりやすい。しかし小さな行動や考え方の変化を積み重ねると、結果として大きな変化につながる。

変化しないときには、変化しない理由がある。だから無理に変えるよりも変わらない事情を把握して別のアプローチを模索した方が結果につながりやすい。

こういった事情があるのです。

カウンセリングを受けるなかで、「アドバイス通りにしたけれども変化しなかったとき」それは違う方法を考えるために重要な機会といえます。つまり「その方法では上手くいかないことがわかった」「別の方法を考える契機」なのです。

ただし、クライエントにとっては「また失敗した」「せっかくアドバイスをもらったのに効果がなかった」と否定的な思いも出てきます。カウンセラーはクライエントの挫折感を汲み取り、気持ちを支えることも必要です。「上手くいかないときでも諦めずにカウンセラーが一緒に考えてくれた」。この体験がクライエントのこころの成長を支えるのです。

ですので、アドバイスを受けたとき上手くいってもいかなくても、カウンセラーと相談してみるのが大切です。
そこで勇気を出して相談し、変化を諦めなかったことがその後の変化を支えます。カウンセラーとのズレを認識することは、カウンセリングを有効活用することにもつながります。またそのような関係性が作れるようなカウンセリングであることも大切だと思います。

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