子どもの創造力
子どもの頃、豊かな創造力を発揮し空想の世界で遊ぶことを自然にできました。しかし大人になるにつれて、次第にその感覚を忘れてしまっています。深層心理学の観点からみると、子どもの頃は無意識との距離が状態だといえます。創造力は無意識からもたらされるため創造力を豊かに発揮できるのです。しかし大人になると現実の問題に直面し、意識的な思考が優先されるようになります。無意識との距離が広がって意識中心の生活となり、創造的な力が弱まってしまうのです。
ここで問いが生まれます。「創造性を失うことでこころはどうなるのか?」――大人はこの答えにあまり気づいていないかもしれません。大人になると創造性が次第に後回しにされ、現実的な問題に取り組むことが優先される。しかしその犠牲として、こころに何が起きているのです。
大人になってさまざまな悩みを抱えたとき、過去の経験や知識をもとに、解決策を考えます。しかしそういった意識的な方法だけでは、どうしても行き詰まることがあります。というのも思いつく解決策が限られているからです。つまり創造性を犠牲にすることで自分の可能性を狭くし、生きづらさを生んでいるのかもしれないのです。創造性の力を弱めることで、自分のこころにあった豊かな世界を崩壊させているのかもしれないです。
そこで重要になるのが「無意識」の力です。深層心理学では無意識にアクセスして創造的な力を引き出すことで、意識だけでは解決できなかった課題に、新しい光を当てることができると考えます。無意識のなかには普段の意識だけでは気づけられない、新たなアプローチや解決策が眠っているからです。
無意識とのつながりを取り戻して創造性を活性化することは、たとえば問題解決を導くことにつながります。もちろん創造性があったとしても悩みをゼロにすることはできませんが、創造的なアプローチによって問題解決の道筋を見つけやすくなるのです。または創造性を発揮することで、さまざまな考えやアイディアが浮かぶようになり、人生全体が豊かにもできるのです。
では、大人になってからどうすれば創造性を取り戻せるのでしょうか?
創造性を取り戻す方法
カウンセリングはその方法のひとつですが、手軽にできる方法として、質の高い物語に触れることが役立ちます。ファンタジーや物語の世界は意識だけでなく、無意識にも深く強く働きかけます。物語に触れることでこころに眠るさまざまな感情や記憶、そして無意識が呼び覚まされるのです。無意識に刺激を受けることでページをめくる手が止まらず、自然と涙ががあふれて止まらなくなることもあるかもしれません。それほど物語りは無意識を深く揺り動かし、こころの奥深くにあるものを引き出す力を持っているのです。
豊かな世界を内的に回復する
ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』は、強力で深い力を備えている本です。最初は子ども向けの物語りのように思えて敬遠するかもしれませんが、大人が読んでも充分に深い洞察を得られる作品です。
読者は物語りを通じて、主人公バスチアンともに創造的な世界と現実の境界を超える冒険を体験します。バスチアンが自らの不安や恐れに向き合い、最終的に成長していく物語りをたどることで、読者自身も内面での変化を体験するのです。
映画『ネバーエンディングストーリー』の原作としても知られる本作品ですが、映画では描ききれない物語の深さを、原作ではより味わうことができます。とくに読者としてバスチアンのこころの葛藤や成長を追体験できることが大きな意味を持ちます。この物語のなかで、主人公がどのように自分のこころと向き合い、創造力を活かして自分を変えていくか。そして変えるためにはどの様な体験をしたのか。そういった恐れや不安、勇気や前向きな決意などを感じ取ることで、読者自身のこころもそのプロセスに共振するのです。
物語りを通じて自分の無意識とのつながりをもち、こころの深い部分に触れることができる『はてしない物語』は、大人になったときにこそ読むべき本なのかもしれません。とくに日常生活に疲れを感じていたり、人生のなかで行き詰まりを経験して自己成長を求めている方には、この物語りは新たな創造性をもたらしてくれるでしょう。
おすすめは分厚い1冊にまとめられた版です。長大な物語りですが、急ぐ必要はないので、ゆっくりと時間をかけて物語りを味わいながら、自分のこころの変化を感じてください。ファンタジーの世界をしっかり生きることで、自分の無意識に眠っている創造性が動き出す体験をできるはずです。


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