佐野洋子 『100万回生きたねこ』 (講談社、1977年)
『100万回生きたねこ』は涙が止まらなくなるといわれる有名な絵本です。
作者の佐野洋子さんは、絵本作家としてだけでなく、エッセイストとしても活躍していました。彼女のエッセイからは、非常に個性的で情に厚い人柄が伝わってきます。晩年、記憶力の低下や物忘れを嘆き、ときには出先で他人に声を荒らげて自己嫌悪に陥る。そんな飾らない姿をさらけ出しながら、一日一日を高い熱量で生きた方でした。
佐野さんの人生には、死の影がありました。幼少期を過ごした中国で、栄養失調により12歳の兄と幼い弟を亡くされています。そして自身は60代後半で癌を患い、生涯を閉じました。
癌を告知された際のエピソードには、彼女らしさが凝縮されています。ヘビースモーカーだった彼女は、自宅から数分の病院に入院中、こっそり自宅へ戻り、タバコを吸っては病院へ帰るという生活を送っていました。 さらにその後、癌の転移により「余命約2年」と宣告されたとき、帰り道に最後に乗る車として高級車ジャガーを購入します。しかし運転はあまり得意ではなく、車庫入れでぶつけて車体は凹み、ボンネットはカラスの糞にまみれていたそうです。細かいことにこだわらない、大胆な生き様でした。
そんな彼女が描いた代表作が、『100万回生きたねこ』です。
100万回生きる人生
主人公は「100万回死んで、100万回生きた」ねこ。彼は誰よりも自分が大好きで、100万回も転生を繰り返していることを誇りにしていました。 そこへ一匹の白いねこが現れます。白いねこは、彼がいかに自慢話をしても動じません。やがて彼は白いねこと、ともに過ごすようになり、二匹の間には子猫たちが生まれます。
彼は、白いねこといつまでも一緒にいたいと願うようになりました。しかし、ときは流れ、白いねこは息を引き取ります。彼は100万回も泣き続け、やがて動かなくなりました。そして、もう二度と生き返ることはありませんでした。
この物語と佐野洋子さんの生き様を重ね合わせると、「いかに人生をまっとうするか」を深く考えさせられます。
ねこは、自分が大好きだったのが、最後に大切な存在を見つけました。そして、大切な存在を無くしたとき、自分の人生を生き切ったのです。
佐野さん自身、幼少期に兄弟を亡くした経験から、生死に対してどこか冷めた視点を持っているようです。晩年のエッセイからは、彼女が佐野洋子という人生を全力で生き抜いたことが伝わってきます。
人生には、辛いことや悲しいこと、そして嬉しいことや楽しいことが入り混じっています。人を助けることもあれば、周囲に迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。しかし、その様々な想いが巡ることこそが、その人だけの人生なのだと思います。
自分らしく生きるとは、どういうことか。 ひとつの例を見せてもらえる絵本です。


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