幸せは身近なところにある。これを実感として理解するのは簡単なことではないかもしれません。幸せを探し続けたものの、なかなか見つけられなかったという方がむしろ実感に近いのではないでしょうか。
メーテルリンクの『青い鳥』は幸せを探し求めた末に、それが身近に存在していたことに気づくという物語です。原作を読むと、青い鳥を見つけるための道のりは決して平坦ではいことがわかります。むしろ象徴的にみれば、かなり困難な道を歩んだ末にようやく「幸せは身近にある」という結論にたどり着くといえます。
今回は身近な幸せに気づくようになるためにはどうすればよいのだろうか、ということと物語りを読み解きながら明らかにしていきます。
物語の始まりと死の暗示
『青い鳥』の主人公は、チルチルとミチルという二人の兄妹です。二人は貧しい木こりの家庭に生まれ育ちました。クリスマスの前夜、二人の前に魔法使いが現れます。魔法使いは、自分の娘が病気にかかっているため、その病を癒すために「青い鳥」を探し出してほしいと二人に頼みます。そしてチルチルに不思議な帽子を渡します。この帽子には魔法の宝石がついており、宝石を回すと動物たちが本来の姿を現し、言葉を話し始めます。こうしてチルチルとミチルは、犬や猫、光の精霊たちとともに、青い鳥を探しに森へと冒険に出ることになります。
なぜ二人が青い鳥を探しに行くのでしょうか。それは病にかかり、死に瀕している魔法使いの娘を助けるためです。この物語に登場する魔法使いは悪役ではなく、むしろ善意を持った存在として描かれています。
物語が進むにつれ明らかになるのは、実はチルチルとミチルにはかつて多くの兄弟姉妹がいたということです。しかし病気などで亡くなり、最終的には二人だけが残りました。魔法使いの娘が病気で死にそうだという話を聞いたとき、二人にとってそれは他人事ではなく、深刻な事態だと感じたのでしょう。そのため「娘のため」に青い鳥を探しに出かけるのです。このように二人の旅立ちは、死の暗示を含んでいるとも言えます。
最初に訪れるのは、亡くなった祖父母が住んでいる家です。祖父母は自分たちが死んだことを理解していません。そこには死んだはずの弟や妹も現れます。この旅の始まりから、死を暗示する世界が現われてきます。
その後、二人は「夜の世界」「森の世界」「幸福を象徴する世界」「未来をつかさどる世界」へと進んでいきます。夜の世界では、人生にはネガティブな側面があることを知ります。森の世界では、二人の父親が木こりとして切り倒した木の家族や森の動物たちが怒り、二人の命を奪おうと襲いに来ます。二人は犬の助けを借りてなんとか逃げ延びます。希望の世界では、普段は多くの子どもたちを亡くし貧困に苦しむ母親が、実は深い愛情を持った美しい人物であることを知ります。そして最後に訪れる「未来をつかさどる世界」では、まだ生まれていない子どもたちと出会います。そのなかには二人の将来の弟となる子もいます。彼は生まれてくるものの、病気で幼いうちに命を落とす運命にあることを告げます。
これらの世界を巡ることで二人は「生と死は表裏一体であり、光と影は不可分である」ことを実感します。また物事の表面的な見方にとどまるのではなく、その背後にある深い真実に気づくべきだという教訓を学ぶのです。
そして最後に家に戻ると、二人が体験した冒険は実はすべて夢だったことに気づきます。しかし家にいる鳥が青い鳥であることを発見します。身近なところにあった幸せの本質を理解できるようになったからこそ、青い鳥だと認識できたのです。この本質に気づくためには命の危機に直面するような経験を通じてこそ、初めてその力を得ることができたのです。
青い鳥は逃げてしまう
家にいると近所に住む老婆が訪ねてきます。その老婆は二人が夢の中で出会った魔女にそっくりでした。老婆は娘がこころの病にかかっていることを告げ、その娘が青い鳥を見たいと願っていることを伝えます。娘は青い鳥を手に入れることで病気が治ると信じています。
チルチルはその娘に青い鳥を見せます。娘は元気を取り戻しますが、すぐにその鳥を独り占めしようとします。すると青い鳥は逃げてしまいます。これは物事の本質を理解せず、欲望に駆られて幸福を独占しようとすると、それを失ってしまうという教訓を示しているようです。
チルチルは本質を理解していれば、幸せは再び見つけることができると知っています。そのため青い鳥は再び見つかるという希望を語って物語は終わります。
自分に幸せが訪れないと感じている人であっても、身近な出来事を違う視点で見ることで本質に気づき、最終的に幸せを見つけることができるのです。
カウンセリングと青い鳥
カウンセリングの仕事も似ています。身近な出来事をカウンセリングを通して別の視点で見直していきます。その過程でさまざまな感情や思いを経験し、悩んでいた状況を別の角度から考えることができるようになったときに気づくのです。身近なところにこそ、真実があるということに。
『青い鳥』を読むと、幸せを見つけることの難しさかがわかります。チルチルのように光の導きや助言を受けながら、正しい心を持って前に進んでいくことが求められます。苦しい体験を乗り越え、そのなかで真実に気づくことで幸せを発見する。こころの深層から考えると、非常に考えさせられる物語です。


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