マリー・ホール・エッツ『もりのなか』（福音館書店・1963）
深層心理学のカウンセリングでは「夢分析って、どんなことをするのですか？」と聞かれることがあります。
ひと言で言えば、それは夢に現れたイメージを通して、こころの深い部分を体験的に理解していく作業です。
夢の内容を「分析する」というよりも、「味わいながら、その意味を感じ取っていく」と言った方が近いかもしれません。
夢には、わかりやすいものもあれば、何のことやら分からない不思議なものもあります。しかし、その「わけのわからなさ」こそ、こころの深層、無意識の世界の特徴といえます。
無意識は、理路整然とした内容ではなく、一見わかりにくいけれども興味深いイメージや象徴を通して、私たちに何かを伝えようとします。
そこで今回は「無意識の表現」に触れる例として一冊の絵本をご紹介します。
マリー・ホール・エッツの『もりのなか』です。1963年に福音館書店から出版されて以来、今も読み継がれているロングセラーです。
物語りの内容
物語はとてもシンプルです。
男の子がラッパを手に、ひとりで森に入っていき、そこでさまざまな動物たちと出会います。動物たちと遊び、かくれんぼをしている最中に、お父さんの声が聞こえ、男の子は森をあとにします。
それだけの短くて静かな物語です。
けれども、この絵本の中には、こころの深層を感じさせる表現が溢れています。
森とは日常の世界とは少し異なる場所です。深層心理学的にみると「無意識の世界」の象徴として読むことができます。そしてそこに現れる動物たちは、子どもの内なるこころの姿の表れかもしれません。
「ライオンのようなこころ」「ゾウのようなこころ」「うさぎのようなこころ」。
私たちも日々の中で、いろいろな“自分”を感じながら生きています。
それぞれの動物は子どもの内面の一部——あるいは、私たち一人ひとりの中にもある、さまざまなこころの側面——を象徴しているとも考えられるのです。
物語の終盤、かくれんぼの場面では、動物たちは次々と姿を消していき、うさぎだけが残ります。
じっと耳を澄ませるうさぎの姿は「今、何が起きているのか」を感じ取ろうとする、こころの動きのようにも見えます。
そこに、お父さんの声が聞こえてきます。つまり子どもの内的な世界から、大人と暮らす現実の世界へと戻っていく。無意識の世界から意識の世界への帰還——そんな表現とも読めるでしょう。
もちろん、これはひとつの読み方にすぎません。
無意識と遊ぶ、交流する
絵本は、何も考えずにただ楽しむのも大切です。
しかし、主人公の気持ちになって、森を歩き、ライオンになり、ゾウになり、うさぎの気持ちでじっと耳を澄ませてみる——
そうして物語を体験として味わうことが、こころの世界を感じ取る第一歩になるかもしれない…。
夢を読み解くことも、これによく似ています。
夢の内容を「理解しようとする意識」と、「その世界を感じ取る体験」を同時に味わうのです。
そうすることで私たちのこころの奥にある世界が、少しずつ広がっていくのです。つまり無意識と交流するのです。
こころの悩みとは、無意識からのメッセージである可能性があります。本当は無理せずにもっと自分らしい道を進んではどうだろうか。今、無理をしすぎて自分を見失っていないか。もっと素直な自分になってはどうだろうか。
そういったことが無意識の表現をとおして「もう一人の自分」の姿として現われてくることがあります。夢に表現されたことを知り、さらに深く体験することで「自分のこころの深層にはこんな可能性がある」ことに気づけるようになるのです。そして悩みが自然と変化していく。
そのために深層心理学のカウンセリングでは夢を扱うのです。
もし、ご自身の夢やこころの奥にあるイメージをもう少し深く見つめてみたいと感じたら、一度、カウンセリングを申し込んでください。
あなたの深層心理にある「もりのなか」を、いっしょに歩いてみましょう。
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